山で暮らすリスク

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「ワンッ! ワンッ!」  山太郎が戻ってきてくれた。でも他にも足音がする。なんだ? 「おーい、大丈夫か?」  男の声がした。知らない声だ。次の瞬間藪の中から山太郎が飛び出してきた。崖を飛び降り僕の側に来て頬を舐めた。  次に現れたのは男、そして隣のおばさん。 「なんだ、これくらいの崖。登れないのか?」 「足怪我してるんじゃないの?」  僕はおじさんとおばさんによって助け出された。おじさんに背負われ家へと戻った。 「捻挫かしら。湿布ある?」 「ないです」 「家にあるから持ってくるわね」  おばさんは乗ってきた軽トラで家に戻って行った。 「山ちゃんが知らせに来てくれたんだよ」 「山ちゃん?」 「その犬だよ。俺たちは畑にいて家にいなかったんだが、畑まで呼びに来たんだ」  山太郎が。 「親父さんはいつも山ちゃん連れて歩いてたよ。山ちゃんも綱も付いてないのに親父さんからは絶対に離れなかった。よっぽど仲が良かったんだな」  僕の知らない親父の暮らしをお隣さんは知っている。それ以上に山太郎も。 「息子たちはみんな立派な大人になっちまって話もしてくれない。うるさいくらいに付きまとっていた頃が懐かしい。でもコイツはいつも側にいてくれるんだ。そう言ってた」  親父も寂しかったのだろうか。兄たちは自立してそれぞれの人生を歩んでいる。僕は着信拒否をして関わりを断っていた。仕事も定年で辞めてしまい社会的な繋がりもなくなった。親父もひとりぼっちだったんだ。
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