山で暮らすリスク

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「うちも子どもたちはみんな町に下りてしまった。家を継ごうなんて奴は誰もいない。俺たち夫婦もどちらかに何かあったらここでは暮らせない。まあ、そんな話しを親父さんとは良くしていたよ」  外で車の停まる音がした。おばさんが戻ってきたようだ。 「ほら、足出しなさい」  自分で貼るからという僕の言葉を無視しておばさんは湿布を貼ってくれた。 「この家に住もうなんて息子はいないって武田さんは諦めてた。俺がいなくなったら山ちゃんの家になるってね。でもちゃんと住んでくれる息子さんがいて喜んでるわよ、きっと」  僕も仕事が上手くいっていたら住まなかっただろう。そうしたら親父の気持ちを知ることもなかった。そして山太郎も野良犬となりひとりぼっちになっていただろう。  僕が人生に失敗したのも、アパートを追い出されたのも運命だったのではと思えた。 「お父さんが倒れた時も山ちゃんがうちに知らせに来てくれたのよ。すぐに駆けつけて救急車呼んだけど、町から遠くて時間がかかってしまったのよ。町に住んでいたらお父さん助かったかもしれないのにね」  おばさんはしんみりと言った。 「あれから山ちゃんの姿を見なかったから心配してたのよ。良かったわね山ちゃん。新しい飼い主さんができて」  山太郎は相変わらず薪ストーブの前でくつろいでいた。
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