宝の在処

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宝の在処

 ここへ来てから毎日があっという間に過ぎていく。畑も放っておくと草だらけになるから毎日草取りをしなければならない。風呂を沸かすにしても薪を拾って来なければならない。やる事がたくさんある。  アパートで閉じこもっている時は時間の過ぎるのが遅くて、いつまでもこの苦しみが続くものだと思っていた。  ここに来て良かった。のんびりとだが確実に時間は進む。時間が進むたびに野菜は育ち、火起こしが上手くなっていく自分に気がつく。  この生活が僕には合っている。成績だの競争だのは僕には向いてなかったのだ。  春が過ぎ夏が終わり、収穫の秋が来た。農業初心者の僕が戸惑っているとお隣さんが時々様子を見に来てくれた。アドバイスもくれた。そのお陰で初めてながら1人で食べるには余るくらいに収穫できた。兄さんたちに送ってやろう。  冬が来る前に薪も用意しておかなければならない。風呂だけでなくストーブも薪だ。雪が降る前にたくさん用意しておきたい。  僕は毎日山に入り薪を集めた。最近ナタの使い方のコツも掴めてきた。山歩きも慣れてきてあまり疲れなくなった。体力が増したのだろう。今では大分山の奥の方にまで入れるようになった。  そんなある日。 「ワンッ!」  山太郎がひと鳴きすると山の奥へと走って行った。時々振り返りながら奥へと進む。僕に付いて来いと言っているようだ。僕は山太郎の後を付いて行った。  藪や倒木が行く手を阻む。しかし山太郎は嬉々として進んで行く。この先に何があるのだろうか。ちゃんと帰れるのだろうか。不安になりながらも山太郎の後を歩いた。
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