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「ワンッ!」
山太郎が止まった。僕を見て自慢げに尻尾を振っている。わけも分からず立ち尽くしていると、山太郎は地面に鼻を近づけくんくんと匂いを嗅ぎ、突如として前足で枯れ葉を掻き分け始めた。
「なんだ? 何かいるのか?」
山太郎の近くに寄ると、ふわりと良い香りがした。昔嗅いだ事があるが何の匂いだっただろうか。
「あっ!」
枯れ葉の下には立派なキノコが生えていた。もしかして松茸か?
その後も山太郎は枯れ葉を掻き分け僕に教えてくれた。僕は夢中になってキノコを採った。もしこれが松茸なら高く売れる。
「もしかして、おばさんが言ってた宝物って……」
引っ越しの挨拶に行った時にお隣のおばさんが言っていた言葉を思い出した。
「お父さんから宝物の在処は教えて貰った?」
宝物って松茸の事だったのだ。いくら家の中を探してもなかったわけだ。
大量の松茸を持って僕はお隣さんの家に行った。一応本当に松茸なのか確かめてもらうためだ。
「立派な松茸ね。これは高く売れるわよ」
おばさんは松茸を売る事の出来る場所を教えてくれた。そこに売りに行くと想像以上の値段で買い取ってくれた。もちろんお隣さんへおすそ分けする分と自分で食べる分は残しておいた。
「松茸の在処は絶対に誰にも言っちゃいけないわよ。一子相伝よ」
そうおばさんに教えてもらった。
僕にもはっきりした場所は分からない。まだ山太郎に連れて行って貰わなければ辿り着かない。これから毎年山太郎に教えてもらって覚えよう。いつの日が僕に子どもが出来たら教えてあげられるように。
〈終〉
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