山の中の一軒家

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「こんにちは……」  一応声をかけてみる。返事はない。  玄関を入るとそこは土間兼キッチン兼リビングだった。寝床が屋根裏にあるだけで、寝る以外はここで過ごす。男のひとり暮らしにはピッタリだ。  埃の被ったテーブルに荷物を置いた。取り敢えず屋根裏を掃除して寝床だけは確保したい。そう思い階段を上って屋根裏部屋へ向かった。  そこには親父の布団が敷かれたまま残っていた。家でずっと使っていたので覚えがある。懐かしさに目が潤んだ。  それにしても汚れている。埃はもちろんだが、毛? それも人間の毛じゃない。明らかに動物の毛だ。野生の動物が入り込んでいたのだろうか。  親父の形見だが片付けるしかない。僕は布団を担いで下に下りた。  掃除を終えると持ってきた電気ポットでお湯を沸かし、コーヒーを淹れた。  湯気の立つコーヒーをすすりながら耳を澄ませた。人工音なんて全くしない。聞こえてくるのは木々のざわめき、鳥の鳴き声。そして扉を引っ掻く音……え?  恐る恐る窓から玄関の外を見た。するとそこには薄汚れた犬が扉を引っ掻いていた。まるで「開けてくれ」と言っているように。  しばらく見ていると犬はカリカリと扉を引っ掻き、反応がないと分かるとガックリ項垂れ「くぅん」と小さく鳴いた。それでも諦められないのか再び引っ掻き始める。  何だあの犬は。野良犬か?
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