贈り物

3/4
前へ
/13ページ
次へ
 僕はそっと山太郎の背中に手を置いた。山太郎は一瞬ビクッと体を強張らせた。 「山太郎、毎日ありがとう」  僕は山太郎の背中を撫でた。山太郎は再びドックフードを食べ始めた。 「誰かと食事をするのって久しぶりだ。なんかちょっと嬉しいな。お前もずっと1人なのか?」  もちろん山太郎は答えなかった。でもドックフードを食べ終えた山太郎は気持ちよさそうに僕に撫でられていた。  玄関の扉を開けると山太郎はさも当然という顔で中に入った。山太郎はまっすぐに薪ストーブの前で腹ばいになった。そこがお前の定位置なのか。やはりここで親父と一緒に暮らしていたんだな。    それから僕と山太郎の生活が始まった。毎日一緒に外に出る。僕は畑仕事をした。山太郎は林の中に消え、何かしらの獲物を捕まえてきた。どうしたものかと思ったがせっかくの山太郎の好意だ。庭で火を起こし鳥を丸焼きにしてみた。そこそこいける。 「山太郎、鳥やウサギはいいけど、蛇は勘弁してくれ」  僕がそう言うと次の日から蛇は持ってこなくなった。  夜は呼ばなくても屋根裏まで上ってきて布団に潜り込んだ。学校を卒業し就職してからアパートで生活してきた。家で話しをする事もなくなり、ましてや誰かと一緒に寝る事なんて何年もしてこなかった。  隣で寝息が聞こえる。温もりを感じられる。こんな事、子どもの時以来だろう。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加