贈り物

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 山太郎がいなかったら僕はここでもひとりぼっちだったのだ。1人にはすっかり慣れて平気だと思っていた。でも心の中では慢性的な寂しさを抱えていたのだ。封印してきていたが。  公務員の風太郎兄さん、大手IT企業で働く林太郎兄さん。2人に追いつこうと身の丈以上の会社に就職した。それが間違いだった。  バリバリ働く同僚たちにはすぐに差をつけられた。上司からは毎日嫌味と叱責を受け、事務の女性社員からも蔑まれ、顧客からも担当を変えてくれと言われ。僕は仕事に行かなくなった。部屋で引きこもり生活を送るようになっていた。  誰とも話さない日が何日も続いた。家賃や光熱費も払えず請求書だけがポストに溜まっていく日々。  お袋が死んでから男手ひとつで三兄弟を育ててくれた親父。そんな親父にも、優秀な兄たちにも合わせる顔がなくてずっと着信拒否にしていた。兄たちが僕のアパートに乗り込んで来たのは親父の葬式前夜だった。  僕の事情を知っていた兄たちは僕にこの家に住むように言った。親父の貯金も全て僕にくれた。親父の乗っていた車も僕名義に変えてくれた。「何かあったら連絡しろ」と言ってくれた兄たちには頭が上がらない。兄たちにこれ以上迷惑をかけないように静かに暮らそうと決めここにやって来た。  不安、というより静かに、人知れずここで死んでしまえばいいと思っていた。  でも毎朝山太郎がやって来る、明日は何を持ってくるのだろうと楽しみになった。朝が来るのが待ち遠しくなった。  親父が頑張ったように僕も頑張ってみようかと思えるようになった。
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