山で暮らすリスク

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山で暮らすリスク

 それから僕は畑を耕し苗を植え畑仕事にいそしんだ。山へ入り木を切り薪を集めた。  時おり藪の中でガサゴソ音がする時があった。獣かと血の気が引いた。しかしすぐに山太郎が吠えながら藪の中へ入り撃退してくれた。心強い相棒だ。  山の中でキノコを見つけて煮物にして食べる事がある。でも時に僕がキノコを採ろうとすると山太郎が吠えて僕の手を甘噛する事があった。 「これは毒キノコなのか?」  山太郎はじっと僕の目を見つめた。山の事は山太郎の方が詳しい。僕は山太郎の言うとおりにし、食あたりをしないですんでいる。  そんなある日、僕は不覚にも崖から落ちてしまった。といっても僕の身長よりもちょっと高いくらいの崖だ。しかし捻挫をしてしまったようで立つことが出来なかった。しばらく休んで痛みが引いたら帰ろう、側に山太郎がいてくれたら心強い。そう思っていたが、突然山太郎は走り出した。 「山太郎どこへ行くんだ。側にいてくれよ」  僕の言葉なんて無視して行ってしまった。  だんだん薄暗くなる。風も冷たくなってきた。足はまだ痛いままだ。せめて側に山太郎がいれば暖かかっただろうに。空に星が瞬き始め、やっぱり僕はひとりぼっちなんだと感じた。  それまで一緒に研修をして励まし合った同僚が、いつの間にか遠い存在になった。新入社員の時ちやほやしてくれた女性事務員も、僕が仕事ができないと分かるとあからさまに無視をしたり軽くあしらった。  いつもそうだった。学生時代の友人も彼女ができると僕の相談なんか上の空。兄たちだって出来の悪い弟だと思っているだろう。  誰も僕の側になんていてくれない。犬にさえ見捨てられたのだ。もうこのままここで死んでしまえばいいのだ。それでも誰も気づかないだろう。誰も心配しないだろう。僕はみんなから忘れられてしまっているのだ。僕は捨て犬だ。
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