山の中の一軒家

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山の中の一軒家

 生い茂る木立で薄暗い山道を、たくさんの荷物を詰め込んだ軽自動車で走っていく。布団も積んでいるので後ろの窓は塞がれていた。  親父が亡くなって一週間。僕は親父が晩年に住んでいた山の中の家をもらった。今日からそこに住むのだ。ちょうど家賃を滞納してアパートから追い出されるところだったので渡りに船だ。  隣の家に引っ越しの挨拶をしに立ち寄った。家まではまだここから車で10分かかる。いわゆるポツンと一軒家だ。そんなに離れたお隣さんに挨拶する必要なんかないと僕は思っていた。しかし兄たちに「そういう所だからこそ挨拶すべきだ」と言われた。だから仕方なく手土産持参で挨拶をすることにした。  珍しいものを見るような目で見られた。どうせ僕の事を変わり者か人生の落伍者くらいに思っているのだろう。 「お父さん、残念だったわね。働き者で良くおすそ分けもしてくれてたのに。そう、あなたが息子さんなの。お父さんから宝の在処は教えてもらった?」 「宝?」 「あら、教えてもらってないのね。なら自分で見つけなきゃね」  おばさんはフフッと含笑いをして家の中へ入って行った。何だ? 何のことだ? 親父はせいぜい5年くらいしかここには住んでいなかった。なのにお隣さんとも交流を深めていたらしい。  宝物って何だろう。家にあるのだろうか。掃除がてら見つけてみようか。   家は三角屋根のログハウス。まるで大きな犬小屋みたいだった。僕は鍵を開け中に入ろうとした時ある事に気がついた。 「武田信夫(たけだのぶお)……山太郎(やまたろう)?」    表札には親父の名前の横に知らない名前が書いてあった。山太郎なんて聞いた事がない。いや、それよりも誰か住んでいるのか? 中で鉢合わせなんて嫌だ。でも僕が法定相続人だ。誰かいたら追い出してやる!
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