熱砂の番犬

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熱砂の番犬

 歩き始めて二時間が過ぎようとしていた。 「あんなボロ車買うから」  加奈子はもう何度となく、そう呟いては健司の横顔に厳しい視線をぶつけて来る。健司は取り合おうとしなかった。そうでなくても、加奈子は何かにつけて難癖をつけてくる。こんな世界の果てのような光景の中で、これ以上痴話喧嘩を続けたくは無かった。今年は例年よりも一段と猛暑だと、ラジオのニュースは伝えていた。  元はと言えば、二人の関係を修復できたらという思いでアメリカまで来たのだった。ロス・アンゼルスで野球を観戦して、アリゾナの、アメリカらしい広々として乾燥した荒野に沈む夕景を見れば、何かじっとりと絡みついた二人の蟠りも雲散するのではないか。そう思って健司は加奈子をアメリカ旅行に誘ったのだ。
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