熱砂の番犬

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 LAに居た頃は加奈子も上機嫌だった。東北の日本海側の育ちの加奈子にとって、LAのからっとした天候と青い空は充分に気分を変えてくれるものだったようだ。上野のはずれにある夜の店で知り合った、まだ若い女だった。日焼けも気にせずにサングラスをかけて街を歩くのを楽しんでいる様子を見て、健司は事態の好転を期待した。金なら余裕があった。為替の変動幅が大きい中で、かなりの差益が懐に飛び込んできた。これと言って他に投資をしていない健司にとって、女か遊ぶ事に使うぐらいしか、金は使い途がなかった。 「喉渇いた」  加奈子がこれも同じ事を繰り返した。健司はこんなにもこの女を疎ましく感じた事はなかった。 「何か無いの?」 「さっき、お前が飲んじまったので最後だ」  現地でアメリカ気分に浸ろうと中古で買った古いダッジは、電気系統がいかれていたのか、事もあろうにハイウェイのひと気の無い場所でエンストを起こした。ダイナーかドラッグ・ストアが無いか探そうとしたが、スマートフォンも通信状態が悪いのか、ろくに地図を表示できなかった。悪い事が重なった。
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