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 事故が起きないように何とかダッジを路肩に押しやった時には、健司も加奈子も、この暑さに参ってしまっていた。赤茶けた荒野の土と埃は日本人には容赦がなかった。ろくに 補修もされていないだろう道路をタンブル・ウィードが転がっていく。あれは何の映画で見た景色だったか。  それでも路肩を歩き続けて、日差しが焼けつくような西陽になり目を射始めた頃、それまで無言で歩いていた加奈子が「あれ、」と声を出して前方を指差した。  舗装路を、一匹の犬が歩いて来ていた。日本人の目に慣れた大人しい印象の犬ではなく、狼のような、コヨーテのような、見るからに獰猛な顔つきの、鼻の辺りが尖った犬だった。痩せ細った体躯がその俊敏さと気性の荒さを余計に感じさせた。  犬は立ち止った。  健司と加奈子も、身動きが出来ずにいた。  犬は口に、人の腕らしきものを咥えていた。食いちぎったのが、鋭利ではない刃物でぶった斬ったような、そんな物体だった。  二人はその腕に釘付けになっていた。  犬は背後に西陽を浴びている筈なのに、その眼は深い輝きを放ち、細かな息遣いはすぐ耳元で聞こえるように思えた。 「健司」
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