加奈子

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加奈子

 掠れたような加奈子の声を、健司は耳だけで聞いた。  加奈子を愛していた訳ではなかった。いい身体をしていた。抱き心地が良い、と店の客が冗談めかして話していたが、事実そうだった。加奈子自身も自分を持て余しているような女だった。健司が飽きるまで抱いても、まだ物足りないような素振りをする事がある。  あけすけな所があって、口の利き方にもいらいらさせられたが、いつしか、加奈子という女を上手く扱えるような、掌で転がすようにこの女を操れる男になりたいという妙な欲が出て、だらだらと関係を続けていた。  だがある時、他の男の気配を感じるようになった。健司の知っている常連客の名前が頻繁に出るようになったのだ。それが面白くなくて、無駄に金を使って引き留めようとした。そうなると加奈子にもその気持ちが伝わるのか、気を惹くような態度をとる事が多くなった。結果、言い争いが増えて、険悪な状態が続いた。  詰まるところ健司は、加奈子という女を上手く扱えなかったのだ。健司の手には余る女だった。それは健司にも薄々、分かっていた。分かっていて、その状況を解消しようとしていた。女が離れていく事を、健司は怖れた。
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