かぐや姫は諦めない

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 *** 「何でこうなった」 「何がですか、おじーさん?」 「いやだって、その、なんかいろいろおかしいじゃろ」  おじいさんはツッコミを入れた。――丸太を担いで歩いていく、かぐや姫を前にして。 「かぐや姫。おぬし本当は金太郎じゃったんか?」 「やっだなあ、おじいさん。金太郎知ってるの?あれもっとずっと後のお話なのに?」 「そういうメタはいらんのじゃ、かぐや姫!というか儂が言いたいのはそういうことではないわ。お前さん、世間で自分がどんな風に噂されてるのか知っとるのか?」  びしっと、かぐや姫を指さすおじいさん。 「竹から生まれた、月の光のようにキラキラと輝く黒髪の、お淑やかで上品で優しくて女性らしい、素晴らしく美しいお姫様ってことじゃないか。で、実際のおぬしはどーなんじゃ?美人だとは思うが、なんていうかこの、お淑やかさの欠片もないじゃないか」  今更、何を言ってるんだろうこの人は。かぐや姫は呆れる他ない。 「そんな幻想さっさと捨てなよ。私がお姫様なんてキャラじゃないの、とっくの昔にわかってんじゃん。三歳の幼女レベルのサイズだった時に、石臼片手で持ちあげた女だよわたしゃ」  そして金太郎よろしく、クマと相撲を取ってぶん投げたり、丸太をぶん投げて大蛇を退治したり、川を流されてた桃を救出して川沿いの家のおじいさんの家に届けたりしていた女でもある。  ちょっと大きくなったらもう、竹藪でも森でも裸足で駆けまわり、動物たちと遊びまわってきたのだ。そして、猛獣に力比べで負けることもないし、なんならクマに顔面引っかかれても傷ひとつつかなかったほど丈夫なのである。――町の噂は、一体何をどう間違ったのだろう。そりゃ、世間的には“お淑やかで上品なお姫様”ってことにした方がウケがいいのは確かだろうが。 「諦めなよ、おじーさん。私に今更お姫様キャラやるのは無理ゲーだから。月の民だから丈夫だし怪力だし、こういう性格だし、そもそも月の都を追放されたのが父上のベッドの上でトランポリンして破壊したせいだし」 「追放された理由ひどすぎじゃろ……。いや、儂とて素のお前さんを否定するつもりはないのだ。しかし、かぐや姫。一日だけでもいいからお姫様キャラを演じてくれ。綺麗な着物は買ってやるから、頼む」 「なんで?」 「おぬしを嫁にしたいとストーカー……じゃなかった、求婚してくる男どもが多くて面倒くさいのだ。対応してくれなきゃ困る」 「……マジで?」  うわめんどくさい、とかぐや姫は眉をひそめた。  自分は月の都の民。それはもうとっくにおじいさんとおばあさんにもカミングアウト済み。そして、月の住人と地上人の間に子供はできないし、結婚は現実的ではないのだ。そもそもかぐや姫とて、よっぽど自分の好みドストライクな男じゃなければ結婚などしたくない。ぶっちゃけおじいさんとおばあさんの元を離れて見知らぬ男のところでお姫様やるなんぞ論外なのだ。 ――どうやって断るかなあ。  もういっそ、丸太かついでクマと相撲してるところ見せれば向こうから逃げるんじゃね?とも思ったが。  万が一変な噂が流れたら、困るのはおじいさんとおばあさんである。姫とて、愛する二人に迷惑かけたくはないのだ。どうしたものか、としばし考えたのだった。
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