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――却下!
かぐや姫は心の中で叫ぶ。
一人目の男を見た途端、こいつと結婚なんてありえない、と思ったのだ。
見た目がものすごく悪いというわけではない。しかし、とにかく臭う。なんかこう、綺麗な服着てるのに臭う。初夏であるから、汗をかいているせいかと思ったが正直そんなレベルではない。
なんでや、と思ったらあっさりその男が白状した。
「ち、朕はとっても綺麗好きでおじゃるでな!に、二か月に一回はちゃんと風呂に入るでごじゃる!」
ありえねえ。
かぐや姫は引きつった笑顔で、どうにか罵倒を胃の腑に押し込んで告げたのだった。
「……どうしても私と結婚したいなら、私が欲しいものを見つけてきて貢いでください。貴女には天竺にある、お釈迦様が使われた石の鉢を持ってきてください」
それは実在する宝、ではあった。しかし、そもそもお釈迦様がこんな男に鉢を貸すはずがない。ようは、体よく厄介払いしたのである。
案の定、一人目の男はお釈迦様に会いに天竺に行って行方不明になった。あまりに不潔すぎて、お釈迦様の釈迦パンチを食らって潰されたのは明白である。そりゃそうだ。
そして、間を置かずして二人目の男が来た。かぐや姫は再び思った。
――こいつも却下ああああああああああ!
前の男と違って不潔ということはないし、やっぱりものすごく醜いわけでもない。しかし。
「儂は、とてもそなたを気に入っているのじゃ。頼む、嫁になってたもれ!は、ハアハア」
会って早々、視線がまったく合わない。何故ならずっと、かぐや姫の大きな胸ばっかり見てるから。胸時々太ももと尻。論外である。
男が女の胸に興味を持つのはわかる。ちらっと見るくらいはまあ仕方ない。だが、常にそこばっかり見て、性欲隠しきれてませんなんて男はありえない。ていうか、何もしていないのに股間がもろにテントを張っているし。
「私と結婚したいなら、私が欲しいものを持ってきてください!蓬莱山にある球の枝がほしーです!」
かぐや姫は知っていた。現在、蓬莱山の宝の番人を務めているのが、世にも美しい仙女だということを。このどすけべ男が、彼女になびかないはずがない。そして、そんなド変態男を、高貴な仙女が許すはずがない。
二人目の男も、蓬莱山に行ったまま行方不明になった。一説によると、仙女の奴隷として永遠にコキ使われる羽目になったというが、真偽は確かではない。
三人目、四人目、五人目とストーカー、じゃなかった求婚者の男たちがきたが、かぐや姫はすべて適当に追い払ったのだった。どの男達にも宝を持ってこい、という名目で厄介払いをして、そのまま戻ってこなかったわけである。燕の子安貝を取りにいった男なんぞはうっかり高所から落ちて半身不随になったということで、それは少々気の毒であったが。
そう、彼らはてんで駄目だった。かぐや姫が面食いであることを差し引いても、駄目な男たちばかり。とても結婚になんて値しなかったのである。
しかし。
「そなたがかぐや姫か。……どうか、予と夫婦になってはくれぬか」
何と屋敷に、時の帝が訪れた。この帝、かぐや姫どころか、同性であるはずのおじいさんが見惚れてしまうほどの美青年である。キラキラオーラが全身から迸っているほどである。
しかも時の帝だからお金持ちだし、権力もあるし、家もでっかい。その上。
「そなたが予と夫婦になってくれた暁には、そなたの愛するおじいさんとおばあさんを貴族に取り立てよう。なんなら一緒に暮らしても良いぞ」
「おっけ、わかった!結婚しましょ!」
「即答!?」
おじいさんとおばあさんと離れなくていいし、その上超優良物件な男なわけである。断る必要などあるはずない。
かぐや姫は思った。この玉の輿のチャンス、逃してなるものかと。問題は。
「ただ、陛下。ちょいと問題がありまして」
夫婦になるのであれば、きちんと話は通しておかなければならない。
「もうすぐうちの馬鹿親父……失敬、月の都から、お迎えが来ちゃうんです。私、月の都の住人なんで。全力で拒否りたいんで、力を貸してもらえませんか」
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