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かぐや姫と結婚したい。多少(多少レベルかは知らんが)お転婆でも問題ないし、自由に外遊びできるようにも配慮する(平安の一般的なお姫様は屋敷からそうそう外に出ることもできなかったため)。子供ができなくてもいい、養子取るから。――と、そこまで言ってくれた帝である。当然、月からのお迎えなんて断固拒否!と言う気持ちは一致している。
「ならば、月のお迎えが来る日に、そなたの周囲に警備兵を配置しよう。絶対にそなたを連れて行かせぬよう、守りを固める。それでどうだ?」
「あー、多分それだと無理っすね。月の都の人は謎パワーで、地上人を金縛りにすることができるんで。なんならあっちは科学技術進みまくってて戦車とか戦闘機とかそういうのも持ってるので、ガチの戦いになったら勝ち目ないです」
「せんしゃ?せんとうき?」
「……空飛ぶ鉄の船とか火を噴く車とかだと思ってもらえれば」
とにかく、月の都の人間からすれば、地上人は文明の遅れまくった古代人も同然なのである。本気で怒らせたら虐殺されておしまいだ。なんせ、かぐや姫がベッドでトランポリンしたくらいでぶちぎれて、娘を小人サイズに変えて地上に蹴り落としたような父親である(それで竹の中にハマって出られなくなっただけで、無傷で済んでる自分も自分だが)。地上の帝とその軍勢を蹴散らすくらいわけないことだろう。
「では、どうすればそなたがお迎えに来るのを防ぐことができる?地上の人間の力では無理なのだろう?予は、何がなんでもそなたと夫婦になりたいのだ。何か手はないのか?」
困ったように眉を下げる帝。その顔もどちゃくそかわいい、萌える、と思いつつかぐや姫はどうにか真剣な顔を取り繕った。
「では、私が知ってる宝具と、それを守ってる方々の力をお借りするのはどうでしょう?」
かぐや姫が思い出したのは、先の五人の男達を追い払うために使った数々の品物だ。あれは嘘も方便ではなく、全て実在する宝物である。
あれらの力があれば、月の軍勢に対抗することもできるだろう。なんせ、この地上の神様のものなのだから。
「大丈夫です。私が持ってる“何処にでも行けちゃうドア”があれば、速攻で宝のところに行って帰ってこられます。特に、玉の枝を守る仙女様は超絶面食いなんで、帝が直接出向かれれば一も二もなくOKして枝をくれるかなーと」
「どこにでもいけちゃうどあ?何故そのようなものをそなたは持っているのだ」
「私も月の都の住人ですよ?月の秘術も技術も持ってるんです。その力を使って、竹の中に月の都からこっそりネコババ……じゃなかった、貰ってきた小判を竹の中に詰め込んで、おじいさんに差し上げたりしてたんですから」
「……そなた、その横領がバレたせいで月の都に連れ戻されるのでは?」
「ハイ、ちょっと今自分でも思いました……」
何にせよ、都に戻ったらお尻ペンペンじゃすまないのはわかっている。そういう意味でもかぐや姫は絶対に戻りたくないのだ。
そんなわけで、屋敷の奥から版権的にギリッギリなピンク色のドアをよっこらせ、と運んでくると、かぐや姫は告げたのである。
「というわけで、私と一緒に宝物を取りに参りましょう、陛下!大丈夫、宝具でガチガチに防護した上、月の光を浴びてもフリーズしない私が無双すれば、月の軍勢をおっぱらうくらい簡単なんで!」
「いいんだろうか、それで……」
「いいんですいいんです。私、帝と夫婦になるのぜーったい諦められないんで!一緒に頑張りましょう、ね?」
「お、おう……」
“仏の御石の鉢”と“蓬莱の玉の枝”で結界を作り、“火鼠の皮衣”と“燕の子安貝”で防御を固め。
さらには龍の首の珠を使って本体の龍神を召喚した帝に、びびった月の軍勢を素手でちぎっては投げ、ちぎっては投げしていくかぐや姫。
やがて月の軍勢の男達は、泣きながら月の都へ帰っていった。そんな様子を、おじいさんとおばあさんはあっけにとられて見守っていたという。
かぐや姫は無事、帝と夫婦になり、末永く暮らしましたとさ。
おわり。
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