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それまでに色目を使わずに優星と接していた女性はモニカだけだった。だから、優星はモニカを愛した。
だが、モニカは優星を愛してくれてはいたが、優星の人となりを愛してくれていたとは言い難かった。それは、祖国から遠く離れた異国で育んだロマンスという、特殊な事情が絡んでいるかもしれない。周囲に忖度なく、故郷の話題を話せる唯一のパートナーとお互いをみなしており、結局、それ以上でもそれ以下でもなかったのだろう、と今では優星は思っている。例えはおかしいかもしれないが、一種のナイチンゲール症候群に類似したようなものとも言えようか。
その魔法が解けてしまったのは、帰国してからだ。
モニカの仲良くしていた仲間内で結婚ラッシュがあり、モニカは突如として結婚をせがむようになったのだ。二十四時間、仕事中であっても構わず連絡をよこしてきて、泣き喚かれた。
ここから綻びが生じ始めた。
結婚ともなれば、お互いの家族にも紹介しなくてはならないが、モニカは優星の家族に全くもって興味を持たなかった。どころか、教員という地味な職業に就いている家族を蔑む発言も見られた。また、妹の遥に対する嫌悪感もひどく、会いもせずに毛嫌いしていた。
対照的に、外資系企業に勤める自身の両親の経済的な豊かさを自慢ばかりしてきた。その辺りから、二人のすれ違いが始まったと言える。
その頃の優星の独立話による多忙も相まって、溝ができてしまい、結果、修復できぬまま、モニカとの関係は終わってしまった。
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