第1話 「逆光」

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第1話 「逆光」

「おはようございます。中等部生徒会長の一瀬瑠華です。今日は、皆さんに今年大切にしていただきたいことをお話ししようと思います。」 桜吹雪が舞い散り、地に桜の絨毯が出来る頃。 私は、体育館でスピーチをしている。 今年の目標は「Thank You─感謝と成長─」。 生徒会や教師陣とで話し合って決めたことだ。 今この学院にいられるのも、授業を受けられているのも、全ては親や先生方のお陰だと思うから。 それに感謝を伝えられてこそ人として成長できると思うからだ。人は1人では生きていけない。 いつもそばにいてくれる人に感謝できる人こそ、人である意味が出来る。 そう、私は考えるからだ。 「……これを持ちまして、私の言葉とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。」 拍手を滝のように浴びる。 生徒会顧問の安斎啓介先生が私の元に駆け寄る。 「瑠華、スピーチ良かったよ。」 「本当ですか?ありがとうございます。」 「ああ、お世辞じゃないよ。1年生の頃から瑠華を見てきているけれど、本当に成長したね。」 安斎先生は拍手の手をやめなかった。 「ありがとうございます。そんな風に思ってもらえるなんて。」 安斎先生は、思い出したかのようにハッとした。 「……そうだ、瑠華と話していて思い出した。 君に明後日、来客が来るようだ。俺も誰かは知らないんだけれど。」 「そうなんですね。了解しました。」 来客?誰だろうか。私は歴史学者さんとかとも会議をすることもあるのだけれど、歴史学者さんだったら、先に名前を安斎先生に教えるはずだ。一体、誰が来るのだろうか。 「……これ、頼まれてたやつ。」 悳は積まれた書類をぶっきらぼうに置いた。 「ありがとう、家の事も忙しかったよね?」 三条家の嫡男である悳は忙しいはずだろう。 私の家よりもっと忙しいはずだ。 「……まあ、俺の事は気にしなくて良いから。」 「そっか、ありがとう。」 私は書類を受け取った。 悳は医療関係の本を取り出した。 「……その本、試験勉強?」 「……うん。いずれ受けることになるから、今のうちに勉強しておきたくて。」 私と違って、今のうちからこんなに努力していて羨ましい。私も歴史を、生涯に渡って、学びたいと思っている。 「……すごいね、私も負けてらんないや!」 「それでこそ瑠華だな。」 悳の普段笑わない顔が、少し笑った。
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