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戸籍謄本
トックン。
私たちが籍を抜くに至ったのは、一枚の戸籍謄本から始まった。
「和ちゃんと同じ戸籍じゃなきゃ嫌よ!」
「かあさん、何を言っているんだ!」
「どうして私だけ一人の戸籍なの!?」
和ちゃんとは私の夫。
悲痛な叫びを上げたのは夫の養母である恵美子。
夫は彼女の事を、かあさんと呼ぶ。
この二人に血の繋がりは無い。
恵美子はこの二十年間、義理の息子と二人で穏やかに暮らしていた。
身体の関係こそ無かったが、恵美子は長年連れ添った歳の離れた夫婦の様に、義理の息子と穏やかな老後を送る筈だった。
そこに突然、義理の息子と恋に落ちた私が現れ彼女は混乱した。
しかも義理の息子に懇願され、私たち二人の婚姻届の証人欄に自身の名前を書き入れ、印鑑を押してしまった。
気が付けば一人きりの戸籍謄本。
「和ちゃんと同じ戸籍じゃなきゃ嫌よ!」
「結婚したんだからかあさんの籍から抜けるのは当たり前だろう!?」
「どうして私だけ一人の戸籍なの!?」
恵美子は混乱した。
そして一つの答えに辿り着いた。
トックン。
「私、和ちゃんの事が好きよ。男として愛しているわ。」
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