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信じられない
これは現実なのだろうか。
朝日が昇れば私は職場でいつも通りに業務をこなす。夫は自家用車のハンドルを握り北へと向かい、明後日には津軽海峡をフェリーに乗って海を渡る。
そして函館の地を踏む。
信じられない。
夫が私の隣からいなくなるなんて。
信じられない。
もう二度と会えないかもしれないなんて。
信じられない。
これが現実だなんて。
夫の横顔をじっと見つめる。
「沙奈さん。頑張って一人で生きて下さい。」
海を渡る夫の決意は変わる事はない。
黒い旅行鞄の中には津軽海峡フェリーの片道乗船チケットが入っている。
戻ることは無い。
「ほらもう仕事に行く時間だよ。」
「うん。」
「顔を洗って準備しなさいよ。あなたはいつも遅刻するんだから。」
寂しげな笑顔がわたしの背中を押した。
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