第13話

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第13話

「——失礼しますわ」  そいつは突然現れた。  歩くたびに縦ロールが、ふわふわと揺れている。  「邪魔ですわよ」彼女の言葉に、陽キャ達がサッと割れた。    彼女は中心を悠然と歩き、魔王の席の前に立ち—— 「——貴女がヴァルキアナさんですわよね?」  サっと長い髪をかきあげ、凛として魔王を見据えた。  魔王は一瞬だけ彼女の顔を見て、すぐに本に視線を下ろす。 「佳織様が聞いてるじゃありませんか……!」 「そーよ、なんとか答えなさいよ!!」 「なあ……なんだ、あの連中?」  縦ロールと一緒にいた四人の女子が、魔王に向かって喚き散らしている。 「えっとね。彼女は金ヶ崎佳織(かねがさき かおり)さん。金ヶ崎重工の社長令嬢だよ」 「へぇ〜あの大企業のお嬢様ねぇ」  金ヶ崎重工って銀行・造船・宇宙開発を手がける大企業だ。 「ヴァルキアナさん……貴女、聖王杯から辞退していただけませんか?」 「——断る」魔王の言葉に、金ヶ崎の表情が少し険しくなる。 「このわたしがお願いしてますのよ?」 「——くどい」  金ヶ崎の表情がさらに険しくなっていく。  ピリピリとした空気が、二人の間に漂っている。  金ヶ崎は必死の形相で、魔王に辞退するように食い下がっていた。  魔王は金ヶ崎を見もせず、本を読み続けている。 「わたしの話を聞きなさい!」  金ヶ崎は魔王の手から本を取り上げ、静かに睨みつけた。 「貴女が聖王杯に出たい理由を、教えていただけませんかしら……」  ピンと張り詰めた空気に、教室にいた全員が緊張が高まる。 「貴様に言う必要はない……失せろ」  冷たく凍るような口調で言い放つと、魔王は机から本を読み始めた。  本を金ヶ崎から取り返すんじゃないのかよ!  つか、金ヶ崎が手にしてた本と、魔王が読んでる本はどっちも俺のじゃねーか!?  しかも、2冊ともエロい内容のやつだ……! 「ま、いいですわ! 貴女は自分の虚栄心を満たすためだけなのでしょうし」  金ヶ崎は「ふふん」と鼻で嘲笑い、俺の本を投げ捨てた。 「わたしはどんな勝負でも常に一番でしたの!」  ——ペラリ 魔王は金ヶ崎に目もくれず、ページを捲った。 「ですからわたしは聖王杯でも、必ず全生徒の頂点に立つと強い志で臨んでいますのよ!」  ——ペラリ、ペラリ    「これはわたしの名誉と金ヶ崎家の後継者としての矜持……!」  ——ペラペラペラ 「——って、ちゃんと聞いていますの!?」  金ヶ崎の怒りのツッコミが、教室に響き渡った。  シンと静まり返った教室で、ページを捲る音だけが聞こえている。  本を読むのやめて、少しは金ヶ崎の相手をしてやれよ!  目を潤ませて、泣きそうな顔を我慢してるじゃあないか! 「わたしが、他人にここまでコケにされたのは初めてですわ……!」  握りしめた拳をわなわなと震えさせ、金ヶ崎は恨めしそうに魔王を睨んでいる。 「ヴァルキアナさん! 聖王杯出場を賭けて、貴女に勝負を挑みますわ……!」  ——ざわっ! 金ヶ崎の放った言葉に、教室内がどよめいた。 「なあ、聖王杯って辞退も可能なのか?」 「うん。申請すれば辞退は可能みたい」 「……だとすれば、金ヶ崎、割と頭が切れるな」 「んーそれってどういうこと……?」 「単純な話だ。一番人気のヴァルを辞退させれば、自分の勝つ確率が上がるからな」 「これは推測になるんだが」と前置きする俺を、田中は興味深そうな顔で見つめている。 「2から10位以下までのオッズは、ほぼ横ばいなんだよ」  俺はオッズ表を指さし、画面をスワイプさせていく。 「現在金ヶ崎の人気は7位。魔王と金ヶ崎を除けば、あとは上級生ばかりだ」 「……あ、ほんとだ。これってもしかして——」 「ああ。全員の実力は、ほぼ同じの可能性は高いな」  オッズ人気がバラけたのが何よりの証拠である。  金ヶ崎もそう考えたからこそ、なんとしても魔王で辞退させたいはずだ。 「——さあどうしますの? まさか逃げたりはしませんわよね……?」  挑発する金ヶ崎を、魔王はチラリと見遣ると「ふっ」とせせら笑ってみせた。 「ぐ……そうですか。どうしても勝負を受けてくれないのであれば、仕方ありませんわね」  そう言うと、金ヶ崎は俺の方へゆっくりと近づいてくる。  ——ゾクリ 俺の全身に悪寒が走る。  な、なんかすごく嫌な予感がするんだが、気のせいか? 「——では、相馬様も賭けてというのは、どうでしょうか?」 「は……はあああああああ!?」 「そう驚かなくともよろしいですわよ、相馬様……」  金ヶ崎は俺のネクタイをグイっと引き寄せ、そっと顔を近づけた。 「——ちょ、近い近い近い!!」 「うふふ、実はわたし、入学式から相馬様に一目置いていましたのよ」 「な、なんで俺!?」 「相馬様の優秀さは、金ヶ崎重工で役に立つと確信しているからですわ……それに——」 「顔も好みですのよ」彼女はチロっと舌舐めずりをし、耳元でそっと呟いた。  なんかすげー勘違いしてるけども!  俺なんて、どこにでもいる平凡な男なんだぞ!?  金ヶ崎に気に入られる要素なんて、どこにもないんだけど!! 「ダ……ダメだ!」  ——ガタンっ! 魔王が立った勢いで、椅子が派手に倒れた。  金ヶ崎に注がれていた視線が、一斉に魔王へ向けられる。 「相馬にだけは手を出すのは、我が輩が許さん!」  険しい目で魔王が金ヶ崎を睨みつけている。 「ふ、チョロいですわね」金ヶ崎はニンマリと勝ち誇ったような表情を浮かべた。 「——では、どうしますの?」 「いいだろう……貴様の挑発に乗ってやる」 「うふふ……じゃあ出場と相馬様を賭けてということで異論はありませんわね」 「ああ、ない……!」  互いに睨み合う二人の間に、激しく火花が散っている。  え、これって俺が勝負の餌にされたのか……!?
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