第11話

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第11話

**** 「ふぅ」なんとかアニメに間に合い、ほっと安堵していたが—— 「で——なにやってんの、おまえ」 「……別に」頬を膨らませた魔王は、素っ気なく答えた。  一人用の椅子で、座る隙間がほぼないのにだ。  彼女は無理矢理座り、その背中をぴったりと密着させている。 「別にって……意味わからんのだけど」  俺の不満に、魔王はむぅとひと唸りして、 「……ふん、我が輩もアニメを一緒に観たいだけだ」  彼女は素っ気なくぽつりと答えた。  なんか拗ねてるような気がするんだが……  うーん、俺の気のせいか?  アニメの放送中、魔王は一言も話さず、食い入るように視聴している。  ときおり小さく笑ったり、ヒロインの言動に共感して頷いたりしていた。  そういえば魔王も原作漫画を読んでたな。  何度も何度も読み返すくらい、気に入ってたから、アニメにも興味があるのか—— 「……ん?」  アニメも後半に差し掛かった時。  俺はとあるシーンで、なぜか強烈な既視感を覚えた。  ヒロインがポッキンゲームを提案し、嫌がる主人公に強制的にゲームをやらせる場面だ。  ……これってたしか原作1巻の2話だったよな。  俺を含めファンの間でも、それほど盛り上がらなかった話だ。  それがどうして—— 「——あっ!?」    その瞬間、俺は全てを理解した。  魔王がポッキン一箱で終わらせたかった理由。  このアニメを観た後、俺が警戒すると考えたんじゃないのか?  だとしたら、今までやってきたポッキンゲームは……  異世界の儀式じゃなくただのリア充ゲーム!?  え、ちょっと待て待て。  魔王の目的は、俺とキスすることなのか!? 「来週も楽しみだな。そう思うだろ、相馬」  彼女の艶っぽい声に、俺は動悸がバクバクと止まらない。 「お、おう」これが精一杯。今はこれ以上言葉が出てこない。  沈黙の中、エンディング曲が流れ始めていた。  魔王はその曲を口ずさみながら、本をペラペラと捲っていたのだが——  なんか、見覚えのあるエロいシーンがあるんだけど…‥ 「ちょっと待って……おまえ、その本ってまさか——!?」 「うむ、これは相馬が隠していた18禁の同人誌だ」  言うと彼女はドヤ顔で、一番エロいシーンを俺の前に突きつけた。 「はあああああ!? え、おま、ええ〜……どうやって見つけたんだよ……」  絶対に誰にも見つからないように、引き出しを二重底にしたのに…… 「うむ、佳奈と一緒に隠し場所を見つけてな」  なに、え、妹にまでバレてんの?  え、は、なに……ちょ、頭が混乱してるんですけど!?  魔王はまた一枚ページを捲り—— 「——そうか……次はこれを参考にすればいいのか」  ぽつりと小さく呟いた言葉を、俺は聞かなかったことにした。
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