第12話

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第12話

 入学して早2週間が過ぎようとしてた。   「はぁ〜〜〜」  一限目の授業が終わり、机に突っ伏していた俺は、クソデカため息を吐き出した。 「どーしたんだい、東雲? ため息とかしちゃってさ」  すっと俺の顔を覗き込んだのは、クラスメイトの田中。  共通の趣味を持つオタ友達だ。   「ふぅん……東雲もあの集団に加わりたいんでしょ?」  にぱっと笑う田中から視線を逸らす。 「……そうでもないけどな」  その先には魔王を取り囲む陽キャ達が異様に盛り上がっていた。  魔王にも話しかけているようだが、彼女は相手にすらしていない。  完全無視を決め込み、ひとり黙々と本を読んでいた。  それにしてもすげー集中力だな。  俺なら迷惑そうな顔をして見せて、無言で見つめて追い払うところだ。 「なーんか最近魔王(あいつ)の周りに人増えたよなぁ」 「ふふ、気になるよね、東雲」 「はっ! そんなことあるわけねーだろ」  手を振って否定する俺に、田中は「ふぅん」と意味深に呟いた。 「……んだよ、その含みのある笑いは」 「別にぃ……ボク、なにも言ってないけどぉ」  クスリと笑い、田中は隣の席にドカっと腰を下ろした。 「それで、おまえはどうなんだよ、田中」 「——ボク?」  田中はキョトンとして首を傾げた。 「そーだよ。おまえ、カースト上位グループだろ。あれに加わらなくていいのか?」 「ボク、あんなに浅ましくないしね……それに今は東雲と話していたいから」  田中はあざとい笑顔を浮かべ、指先を俺の胸に突き立てた。  な、なんて可愛く笑うんだ!? こ、こいつ本当に男か?   田中の笑顔に、俺の脳が錯覚を起こしそうだぞ。 「えー、た、田中はヴァルと付き合いたいとは思わないのか?」  ——って、俺は何を聞いてるんだあああ!? 「んーそうだねぇ」  田中は天井を見上げながら、考える仕草をとっている。  入学して田中は十人以上から告白されるくらいにモテる。  もし仮に田中が魔王に告白して、魔王が承諾したらどうしよう……  田中の反応を待つ俺は、ゴクリと喉を鳴らした。 「ボクは告白しないかなぁ」 「そ、そうか……! そうだよな、はははは!」  ……って、あれ? なんで今、俺ほっとてるんだ? 「それに、ボクは先輩たちみたいに、公開処刑されたくないしね」  田中そう言って、苦笑した。  入学式の翌日のことだ。  魔王はこの学園のイケメングループから、告白されたのである。  しかも登校時間、生徒が大勢いる校門の前でな。  入学式の一件以降、魔王は学校での話題の中心になっていた。  同級生・上級生は言うに及ばず。他校の生徒まで告白が後を経たなかった。  俺も毎晩、魔王に「鬱陶しい」と愚痴を聞かされてウンザリしていた。  そんな状況で公開告白。魔王は無視していたんだけどな。  それでも連中はしつこく何度も何度も追ってくる。  結果、魔王は無言で全員の股間を蹴りつけたのだ。  去り際、苦痛で呻く連中を魔王はゴミでも見るかのような目を向けていた。 「——あれは同情するな」 「あんな目に遭いたくないしね。それにボク負ける戦いはしない主義なんだ」 「ふぅん、そうなのか」 「そういうことだよ」田中は声を弾ませ、腕を俺に絡みつかせてきた。  ——ドキン! 抱きつかれた俺の心臓の鼓動が早くなる。  ぐおお! 男のくせに柔らかいし、いい匂いさせやがって!  このままじゃ、俺の理性がぶっ飛びそうになる。 「えーっと、えっと……そ、そう! 最近、ヴァルに人気が出てきたって話だったよな!?」 「え、ああ〜そういえばそんな話してたよね」  そう言って田中は、俺からすっと腕を外した。  ふぅ、なんとか離れてくれて助かった。  まだ心臓がドキドキして、落ち着かないけど。 「たぶん、『聖王杯』があるからじゃないかな」 「……なんだ、その聖王杯ってのは?」  俺の言葉に、田中は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにジト目で俺を睨んだ。 「……昨日、朝のHR(ホームルーム)で、先生が説明してたけど……聞いてないの?」 「聞いてない! 俺にとって朝のHRは貴重な睡眠時間だからな!」 「なんで、満面のドヤ顔するかなぁ」  田中はやれやれと、肩をすくめたジェスチャーをしている。 「それで聖王杯ってのを説明してくれないか、マイフレンド」 「えっとね、今年で聖王樹は創立百年。その記念行事の一環としての競技大会なんだよ」 「記念行事ねぇ……で、それと魔王の人気となんの関係があるんだ?」 「優勝者は、理事のポストが与えられるそうだよ?」 「は、はああああ!? え、ちょま……え、ええ〜……」 「ほんと、ビックリだよね〜」と言っている田中は、まったく驚いてる様子はない。  つか、この学校、やることのスケールがデカすぎるな。  優勝者に理事のポストを用意するなんて、さすが聖王樹ってとこか。 「それで、ヴァルちゃんがダントツの優勝候補なんだよね」 「ちょっと待て……優勝候補って、昨日告知されたのに、どうしてそれが分かるんだよ?」 「えーっと……はい、これ見てみなよ」  田中から渡されたスマホの画面には、【聖王杯予想サイト】と表記されていた。  製作したのは【情報技術部Aチーム】か。ずいぶんと暇してる連中だな。 「えーっとそれで内容は……『優勝候補者は誰か、投票して予想しよう』……?」  出走表のような表の一番上に魔王の名前があった。さらにその下にも他の誰かの名前がずらりと並んでいる。  名前の横にある数字は、オッズか?  たしかにこれ見ると、魔王がぶっちぎりだな。 「なるほどな。これでだいたい理解できた」  魔王が優勝した場合のことを考えて、今から取り入ろうって考えか。  やれやれだ。そんなの魔王に期待するだけ無駄だってのにな。 「自分たちで優勝しようって気はないのかね」 「それ難しいと思うよ」俺の言葉に、田中は難しい顔をしている。 「……どういうことだ?」 「学力と体力テスト、個人能力を総合的に判断して、優秀な生徒だけを選出するみたいだよ」 「……なるほどな。じゃあ早々に連中は諦めたってわけか」  俺は陽キャたちを見遣り、呆れたようにため息をしたそのときだった——  教室の前の入り口でざわめきが起こり、一人の女子生徒が入ってくる姿が見えた。
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