第2話

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第2話

「……お兄ちゃん、遅い」  一階のリビングに降りるとテーブルの向こうで、妹の佳奈(かな)がジト目で睨んでいた。  母さんがいない我が家の家事全般を取り仕切っている。 「おはよう、妹よ」 「おはようって……もう10時なんだけど?」  文句を言う妹を無視し、俺は用意されたトーストに手を伸ばした。  ザクザクっと焼きたのトーストをかじり、コーヒーで流し込む。  朝から飲むコーヒーは旨いな。 「妹よ、またコーヒーの腕をあげおったな」 「……そんなこと言っても、嬉しくないんだけど」  妹は眉間に皺を寄せて、さらに目を細め睨んでいる。  そんな怖い顔しても、お兄ちゃんには分かっているんだぞ。  おまえが今めちゃくちゃ喜んでることをな。  だが妹はそれを悟られないよう、下唇を噛んで誤魔化す癖があるのだ。 「そーいやあ魔王は?」 「ん? 魔王さんはハチと散歩に行ったよ」 「——そっか」  ポメラニアンのハチの散歩は、魔王の日課になっている。  魔王はもふもふ動物に目がないらしい。  初めてハチと出会ったとき。  彼女は一目でハチに心を奪われていたっけ。  あの日は魔王、かなりテンションが高かったなぁ。  くあっと俺はあくびをした。 「で、また夜更かし?」  眠たそうな眼を擦る俺を見て、妹は呆れている。 「んー……アニメの配信を実況を交えて朝まで大盛り上がりしてな」 「はぁ〜……もう高校生だよ?」 「……それは関係ない。つか好きなものは好きなんだし」 「好きなものことは別に否定はしないけど……少しは自重してよね」 「へーい」  俺の気のない返事に、妹が大きなため息をついた。  やれやれ、朝から中二の妹に説教されてしまったな。  来週には高校が始まる。だから春休みといえ、堕落しきった生活は改善しないとだな。 「こんな人が本当に超難関の高校に受かったとか信じられない」  妹はわざとらしく盛大なため息をし、肩をすくめてみせた。 「マジで奇跡だよな。あははは」 「……奇跡じゃないでしょ。昔から頭いいじゃん」 「妹よ。俺、頭は良くない。普段から努力してるだけだ」 「……そんなこと佳奈は昔から知ってるし」 「ん、今なんか言ったか?」 「べ、別にお兄ちゃんのことじゃないし!」 「俺のこと……?」 「いいから早く食べて!」 「お、おう……」  うーん、なにを焦ってるんだ、妹は。  顔まで真っ赤になって、落ち着きがないぞ。 「うーまだ食べてないし……あと十秒で食べなかったら、取り上げるからね!」 「あ、はいはい。今すぐ食うから……!」  催促された俺は、残りのトーストをコーヒーで胃袋に流し込んだ。 「そー言えばさっき魔王さん、『デートだ』とか言ってたけど……どーいうことかな?」  目を細め睨む妹の語尾が強まる。 「いやそれはだな……えーと……モールに買い物を行くついでにだな」 「……へぇ、今日は佳奈の手伝いをする日じゃなかったかなぁ」  ヤバい……そーいやあそんな約束をしてたな。  おもいっきり忘れてたけど、口が裂けても言えんよな。 「あ……あの期間限定のケーキ! それをおまえのために買おうかなーって……」 「ふぅ〜〜ん……それって佳奈のためにってことだよね……?」 「そ……そうそう! もちろん大事な妹のために決まってんだろ!?」 「——だ、大事な妹とかバカじゃないの?」  と怒ったように言ってるが、その表情はめちゃくちゃ嬉しそうだ。 「しょーがない。今回だけは許してあげるからね……!」  ふぅ、妹のご機嫌を取ることには成功だ。  下手に機嫌を損ねると、後が大変なんだよな。  前は晩飯が一週間カップ麺だったからなぁ……
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