第7話 

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第7話 

「よく聞け、平民(かす)ども……今日からオレ様がこの学校の支配者だ!」  桐壺の放った一言に、新入生たちがざわつく。  会場からは「ふざけるな!」「何様だ!」と怒声が飛び交う。 「下民共が」桐壺はふぅと嘆息を漏らした。 「これはもう決まったことだ。おとなしく現実を受け入れろ」  桐壺の言葉にさらに会場は荒れ、ヒートアップしていく。  そんな状況にもかかわらず、沈黙を続ける教師たちの反応は異様だ。  文句を言う生徒も多くいるようだ。  が、それ以外の生徒たちは冷めた表情で舞台を見つめている。 「はぁ」と先輩の声が漏れる。 「文句を言ってるの……あれは他県からの入学者よ」 「なんでそれが分かるんですか?」  俺の疑問に答えるよう、彼女は続けていく。 「彼の家、桜ノ宮市ですごく権力(ちから)を持つ家柄なのよ」  先輩は「知らないの?」と言うが、俺たちが引っ越して来たのは数ヶ月前。  桐壺の家のことなんて知らなくて当然だ。 「でも……だからってこんなの学校が許すわけがないでしょ」 「無理ね」と諦めの言葉が、彼女の口からこぼれた。 「む、無理?」  葉月先輩は陰った表情で頷くと、 「彼ね、この学校の理事会役員で出資者なのよ」 「は、はぁ!? あいつ俺と同い年ですよ!?」 「彼は桐壺家の現当主だから当然なんだけどね」 「……あの桐壺の父親は? 奴が当主なら前の当主はどうしてるんですか……?」 「……それね。まあ彼のお父様は去年亡くなられてるのよね」 「だから彼は実質的な支配者よ」彼女は肩をくすめてみせた。  権力を全て引き継いだんだ。  教師たちも生徒たちも自分の思い通りにできる。  壇上に王として立つ桐壺は、さぞ愉快だろう。  愉悦げに周りを見回していた桐壺の顔が突然、険しい表情に一変する。 「おい、そこの女教師!」  桐壺の声に、壇上の脇にいた教師はビクッと肩を跳ねさせた。 「な、なんでしょうか、桐壺さん……」 「——貴様は解雇(クビ)だ」 「な……! なんで私が解雇されなきゃならないんですか!?」 「はっ……貴様、オレ様に敵意ある目を向けただろう。それが解雇の理由だ」  冷たく言い放った桐壺の言葉に教師は、真っ青な顔で愕然としている。 「いいか、オレ様に逆らう奴は容赦はせんからな!」  桐壺の口から出た重い言葉に、新入生たちは一斉に口を噤んだ。  な、なんてめちゃくちゃな奴だ。  たったそれだけの理由で、教師を解雇させるのかよ……!? 「だが安心しろ。オレ様に忠誠を誓う奴には、自由と権力を与えてやる」  静まった会場が再びざわつき始める。  だが、今度は不平不満の声をあげる生徒は誰一人としていなかった。  自由と権力——  その言葉に、同級生たちが一斉に色めき出す。  平民から権力者へ格上げ。  そんな条件を出されたら、誰だって揺らぐよな。  なんて人心掌握術が上手い奴なんだ……って、感心してる場合か。  これはスクールカーストどころの話じゃない。  学校という閉鎖空間で、支配階級が構築されてしまう。 「あの一応聞きますが‥…生徒会長の権限で、桐壺の発言を無効になんて——」  生徒会に多少の期待を込めて、再度先輩に問うが—— 「——諦めて」  無情な答えだけが返ってきた。
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