プロローグ

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[夜食屋ふくろう] 眠れない夜、心を温めるお夜食をお届け。 なんでもお作りいたします。 (深夜十二時から四時まで営業中) ***  東京郊外。  夜が来て、安藤紅(あんどうべに)は喫茶店の扉に(closed)の札をかけた。  すぐそこにある暗い森から獣たちが声をあげはじめる。 「紅」  振り返ると、双子の兄の祭(まつり)が自分のスマホを指差して嬉しそうに笑っていた。 「注文はいったよ」 「よかったぁ」  紅も笑顔を浮かべる。  二十二歳の双子がこの店を受け継いだのは二年前のことだ。  それまでは祖父の礼一(れいいち)が営んでいた。  駅から遠く、森のすぐそばにある喫茶店『梟』には、町のお客はほとんどやってこない。  五十年近く前、礼一がこの場所でお店を開こうと決めた時には、近くに大きな家具工房があった。そこで働く数十人の従業員たちが、ランチや休憩でこの店を利用してくれていた。  ところがその工房も二年前によそへ移転することになった。  双子が店を手伝ってなんとか踏ん張っていたが、去年礼一が肺炎でこの世を去ってしまった。
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