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4
クリスマスイブは雨だった。
俺と彼はサンタの格好をしてテントの下でケーキを売った。
俺は気持ちを振りきるようにケーキを売りに売った。
だから予定より早く一日目のケーキを売り切った。
彼の従兄弟はケーキを一つ俺にくれた。
「ありがとね二人とも。てか、二人とも恋人いないの?」
「いるよ。」
彼が平然とそう答えた。
「え?いるのかよ。早く言えよ!そしたら頼まなかったのに。」
「え?なんで?」
「なんで?ってお前、恋人たちにとってクリスマスイブは大事なイベントだろ!早く彼女に会いに行ってやれよー。」
彼はそう言われて俺の顔を見た。
「え?そうなの?」
「うん。そうだね。」
「なんで言わないの?」
「別にいいかなって。ケーキ売りもまぁ楽しかったし。」
「まだ8時だし!何か旨いもんでも食いに行こう。」
「どこも一杯だよ。みんな何ヵ月も前から予約してんだから。」
「何ヵ月も前?」
「そう。まぁいいじゃん。コンビニでチキンでも買って食べよう。ケーキももらったし。」
それから彼は無言で俺の後ろを付いてきた。
コンビニでお酒とチキンを買って、彼の家まで帰る途中ずっと。
家に帰ってからもどんよりしていた。
俺はキッチンでスープを作って、それなりなディナーを用意した。
「用意できたよ。食べよう、惣一。」
そう言うと彼はヌッと立ち上がって、
「ごめん。」と言った。
「なにが?」
「俺、ダメダメだ。」
「ダメダメじゃないよ。ほら冷めるから。」
「お前もそう思ってるだろ?」
「思ってないよ。」
「いや、思ってるだろ。だからなにも言わなかったんだろ?」
「...まぁ、確かに。期待はしてなかった。というか、あんま興味ないんだろうなって分かってたし。」
「だからケーキ売るの手伝ってくれたんだろ。」
「うん。ほら別に今までだって恋人とクリスマスを一緒に過ごす、みたいなベタなことしたことなかったし。だからいいんだよ。」
「ほんとに良かったのか?」
「...まぁ、本音をいうとそらちょっとは憧れたけどね。ベタなクリスマスイブデート。」
「ほらやっぱり...分かった。来年は絶対完璧なクリスマスイブデートを、」
「来年、一緒にいるかどうか分からないだろ。」
つい言ってはいけないことを口走ってしまった。
「え?」
「いや、ほら何があるか分からないし。あんまり先のことは考えたくないというか。」
「俺が不甲斐ない恋人だからか?」
「そういうわけじゃ、」
「...ごめん、ちょっと出てくる。」
彼はそう言うと本当に出ていってしまった。
これは完全に俺が悪い。
ついトラウマが。
元カレに同じことを言われたことがあった。
「来年のクリスマスは絶対一緒に過ごそう。完璧なクリスマスにするから。」
でもそれは実現しなかった。
クリスマス前に別れ話をされたから。
それから俺は誰と付き合っても先のことは考えないようにした。
執着しないようにしてた。
だから彼にも。
本音は言わない。
叶わないことは最初から願わないようになった。
叶わなかったとき悲しいからだ。
でもそれでも信じようとするべきだった。
彼を待ちくたびれて気が付くと寝てしまっていた。
目が覚めるとクリスマスツリーが飾られてた。
「何件か回ってやっと見つけた。でっかいだろ。」
彼は笑っていた。
「あとこれ。せめてプレゼントだけでもと思って。ただ、空いてる店があんまなくて、」
「ありがとう。」
「俺は来年も再来年も、なんなら死ぬまで一緒にいるもんだと思ってる。まぁ、でもお前がどう思うかは自由だから。」
「俺も一緒にいたいと思ってるよ。」
「...そっか。」
「ダメダメなんかじゃないよ。惣一はちゃんとイケてる彼氏だから。」
「許してくれる?」
「怒ってないし。お腹空いたでしょ?」
「空いたけど、食べたいのは飯じゃない。」
そう言うと彼は俺にキスをした。
「抱いていい?」
「...いいけど、大丈夫?」
「大丈夫。ちゃんと勉強した。」
「勉強って、なに見て?」
「そりゃ、ネットで色々調べて。」
「そう。じゃあちゃんとリードして。」
でも結局リードしたのは俺だった。
まぁ一生懸命な顔は愛おしかったけど。
彼が俺を大事に思ってくれてるのがたくさん伝わった、最高のクリスマスイブだった。
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