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クリスマスイブは雨だった。 俺と彼はサンタの格好をしてテントの下でケーキを売った。 俺は気持ちを振りきるようにケーキを売りに売った。 だから予定より早く一日目のケーキを売り切った。 彼の従兄弟はケーキを一つ俺にくれた。 「ありがとね二人とも。てか、二人とも恋人いないの?」 「いるよ。」 彼が平然とそう答えた。 「え?いるのかよ。早く言えよ!そしたら頼まなかったのに。」 「え?なんで?」 「なんで?ってお前、恋人たちにとってクリスマスイブは大事なイベントだろ!早く彼女に会いに行ってやれよー。」 彼はそう言われて俺の顔を見た。 「え?そうなの?」 「うん。そうだね。」 「なんで言わないの?」 「別にいいかなって。ケーキ売りもまぁ楽しかったし。」 「まだ8時だし!何か旨いもんでも食いに行こう。」 「どこも一杯だよ。みんな何ヵ月も前から予約してんだから。」 「何ヵ月も前?」 「そう。まぁいいじゃん。コンビニでチキンでも買って食べよう。ケーキももらったし。」 それから彼は無言で俺の後ろを付いてきた。 コンビニでお酒とチキンを買って、彼の家まで帰る途中ずっと。 家に帰ってからもどんよりしていた。 俺はキッチンでスープを作って、それなりなディナーを用意した。 「用意できたよ。食べよう、惣一。」 そう言うと彼はヌッと立ち上がって、 「ごめん。」と言った。 「なにが?」 「俺、ダメダメだ。」 「ダメダメじゃないよ。ほら冷めるから。」 「お前もそう思ってるだろ?」 「思ってないよ。」 「いや、思ってるだろ。だからなにも言わなかったんだろ?」 「...まぁ、確かに。期待はしてなかった。というか、あんま興味ないんだろうなって分かってたし。」 「だからケーキ売るの手伝ってくれたんだろ。」 「うん。ほら別に今までだって恋人とクリスマスを一緒に過ごす、みたいなベタなことしたことなかったし。だからいいんだよ。」 「ほんとに良かったのか?」 「...まぁ、本音をいうとそらちょっとは憧れたけどね。ベタなクリスマスイブデート。」 「ほらやっぱり...分かった。来年は絶対完璧なクリスマスイブデートを、」 「来年、一緒にいるかどうか分からないだろ。」 つい言ってはいけないことを口走ってしまった。 「え?」 「いや、ほら何があるか分からないし。あんまり先のことは考えたくないというか。」 「俺が不甲斐ない恋人だからか?」 「そういうわけじゃ、」 「...ごめん、ちょっと出てくる。」 彼はそう言うと本当に出ていってしまった。 これは完全に俺が悪い。 ついトラウマが。 元カレに同じことを言われたことがあった。 「来年のクリスマスは絶対一緒に過ごそう。完璧なクリスマスにするから。」 でもそれは実現しなかった。 クリスマス前に別れ話をされたから。 それから俺は誰と付き合っても先のことは考えないようにした。 執着しないようにしてた。 だから彼にも。 本音は言わない。 叶わないことは最初から願わないようになった。 叶わなかったとき悲しいからだ。 でもそれでも信じようとするべきだった。 彼を待ちくたびれて気が付くと寝てしまっていた。 目が覚めるとクリスマスツリーが飾られてた。 「何件か回ってやっと見つけた。でっかいだろ。」 彼は笑っていた。 「あとこれ。せめてプレゼントだけでもと思って。ただ、空いてる店があんまなくて、」 「ありがとう。」 「俺は来年も再来年も、なんなら死ぬまで一緒にいるもんだと思ってる。まぁ、でもお前がどう思うかは自由だから。」 「俺も一緒にいたいと思ってるよ。」 「...そっか。」 「ダメダメなんかじゃないよ。惣一はちゃんとイケてる彼氏だから。」 「許してくれる?」 「怒ってないし。お腹空いたでしょ?」 「空いたけど、食べたいのは飯じゃない。」 そう言うと彼は俺にキスをした。 「抱いていい?」 「...いいけど、大丈夫?」 「大丈夫。ちゃんと勉強した。」 「勉強って、なに見て?」 「そりゃ、ネットで色々調べて。」 「そう。じゃあちゃんとリードして。」 でも結局リードしたのは俺だった。 まぁ一生懸命な顔は愛おしかったけど。 彼が俺を大事に思ってくれてるのがたくさん伝わった、最高のクリスマスイブだった。
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