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お正月。 いつもながら実家に帰り、飲んだくれの親戚の相手をする。 勝手に俺の将来の心配をしてくれる親切な人たちだ、と思うようにしている。 休みなのに全然休まらないストレスがたまるだけのお正月。 「なにしてんの?」 彼から電話がかかってきて声を聞いたら少しだけホッとした。 「そっちはなにしてんの?」 「親父と二人で酒のんでる。」 「二人?」 「母親も姉貴も遊びに行った。」 「へぇ。じゃあちょっと寂しいね。」 「おいでよ。そんな離れてないし。」 「いやいや、どういう名目で?」 「恋人。」 「さすがにそれは、」 「え?でももう皆に話したよ。」 「なにを?」 「智輝のこと。今度連れておいでよって言ってた。」 「どんな家族だよ。」 「母親がなにが好きか聞いといてって言ってた。」 「惣一がファンキーな理由がよく分かったわ。」 「ファンキー?」 「うちなんかカミングアウトしたら一斉攻撃受けるよ。病院連れていかれてしばらく隔離されるかも。」 「そんな?」 「そんなだよ。古い考えの人ばっかだからね。」 「でもいつかは挨拶に行かないとな。」 「いやいいよ。」 「ダメだよ。そういうのちゃんとしとかないと。」 「怖くないの?まだ21.2なのに未来のこと決めるの。」 「怖くないよ。俺は即決即断の人間だから。まぁそれで橘とは失敗したけど。でも智輝とは失敗じゃないって確信してるから。」 「どこで確信したの?」 「クリスマスイブの夜。」 俺たちはあの夜、ロマンチックの欠片もないセックスをした。 まるで組手の練習。 彼は終わった後、まるでスポーツだなと言った。 「次の組手、いつにする?」 「組手って言うな。次こそは俺が勝つからな。」 「いや、勝ちとかないし。」 久々に笑った。 俺が彼の家族と笑って飯を食う日なんて本当に訪れるんだろうか? 「随分楽しそうだな、智輝。」 声だけでそれが誰か分かってしまうほど、俺にとって特別な存在。 それが、 「陽翔、なんで、」 「ただいま。」 陽翔は俺の呪縛。 血の繋がらない優秀な兄であり、俺の初恋。 「出掛けないか?久しぶりにあの海に行こう。」 そして今もなお、その目に見つめられると逆らえない。 あの頃の俺に戻ってしまう。 戻りたくないのに。 「覚えてるか、俺が初めてお前とここに来た日のこと。」 「覚えてるよ。」 「お前はまだ16だった。なのに大人びてて、可愛げなくて、大人たちを冷めた目で見てた。」 「陽翔だって。」 「そう。俺とお前は似てた。だから惹かれた。」 「似てないよ。俺は凡人だ。陽翔みたいに才能もなければ人を惹き付ける力もない。」 「相変わらずだな。自分のこと分かってない。...帰ってきたのは、お前を迎えに来るためだ。智輝、俺と一緒に来ないか?」 「え?」 「俺にはお前が必要だ。」 昔の俺なら迷わず付いていった。 でも今は。 「さっきの電話の相手か?」 「うん。」 「今だけの関係だろ。」 「そう思ってた。」 「大学出た後のビジョンはなにか見えてるのか?」 「...まだ。」 「あっちの大学に編入すればいい。俺の仕事を手伝いながら通え。」 「...少し考えさせてほしい。」 「分かった。」 陽翔の言うとおり、大学出てから何になるのかなんて何も見えてない。 でもだからと言って。 彼に陽翔と会ったことを話した。 「義兄弟。またややこしいな。」 「義兄弟で初恋の相手なんだ。」 「え?」 「陽翔は俺とは正反対でいつも中心にいる人間だった。カリスマ性があって人を惹き付ける。俺はそんな陽翔に憧れてた。」 「で、どうすんの?」 この人には嫉妬する、という概念はなさそうだ。 普通、初恋の相手って聞いてその発言には至らない。 「悩んでる。」 「いいチャンスだとは思うけどな。海外に住むなんてなかなかできないし。」 「もう戻ってこない来れないかもよ?」 「え?そうなの?」 「それでも薦める?」 「そうなったら俺もそっち住むし。問題なし!」 「俺が陽翔とどうにかなる、とかは考えないわけ?」 「はっ!考えなかった。どうにかなる?」 「それイエスって答えたらどうすんの?」 「...どうしよう。」 彼のこういうアホなとこに俺は結構救われてる。 陽翔とは絶対こんな風に笑って話せない。 いつも刺激をくれるし、尊敬もしてるけど俺とは違う世界の人間だと思うことがある。 近いのに遠い。 でも惣一とは離れてても近くに感じることがある。 別に離れていたっていい。 なにを考えてるか分からなくても不安にならない。 「ごめん、一緒には行けない。」 「...ほんとにいいのか?」 「うん。」 「お前は見つけたんだな。たった一人を。」 「そうかもしれない。まだ分からないけどね。」 「10年後、もし気が変わってたら連絡してくれ。」 陽翔はそう言って帰っていった。 さよなら初恋。 10年後、俺はどうなってるんだろう。 そして彼といるんだろうか?
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