真白な花に導いて

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始まりは最寄り駅の階段で、初秋の19時過ぎ。 その階段をのぼるとエアポートにつながっている。 これが夢の合図だった。 薄暗い階段をかんかんと音を鳴らして踏みしめる。 先に続く長い空中廊下を歩いて行くと、薄暗かったはずの空は淡い夕日に染まっている。風が僅かに暖かくなったから、そのはずだ。 水色と橙色、白と紫。 全てがたっぷりの水で溶いた水彩絵の具を幾重にも塗り重ねたように敷きつめられているだろう、本で読んだ空。 空中廊下からひとつの段差もなしに飛行機に乗り込む。 泉(いずみ)は小さなショルダーバッグを肩にかけただけの身軽な格好だ。 鞄の中には数百円の小銭が入っている。 小さな機内には泉以外にも乗客がいるものの、皆静かだった。 人数は分からないが、10人ほどは泉の横の通路を歩いて席に座った。
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