変なサンタ

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変なサンタ

「明日は12月24日か・・・」 博多駅東口イベント広場では、クリスマスイベント、B級グルメ&お笑い&アイドルショーがクリスマスイブ前日から開催されていて大賑わいである。 会場周辺に装飾されたイルミネーションの前には灯りに釣られてやって来た甘ったるいカップルが沢山湧いていてピンクの臭いが充満している。 そんな中、僕は六本松経由室住団地行きのバス亭のベンチに座り18時55分発の便を待っていた。そしてスマホを見ている振りをしながら呟いた。 ── 「やだやだ鬱陶しい。どうせ僕は一人者ですよ」 雪? 今年初めての・・・ 「寒っ!」 冷たい風邪に巻かれて運ばれて来たビラが足に纏わり付いた。それを手に取りマジマジと見る。 「そもそもイベントのタイトルが長過ぎなんだよ! 知らないアイドルだし、知らない芸人だし、それにこいつらクリスマスとは全く関係無いし。──まともなクリスチャンがこのドンチャン騒ぎを見たら呆れるぞ!」 「まさにその通り!!」 え? 誰? 左横を見ると半袖半ズボンの小汚いオッサンがいつの間にか座っていた。そして僕に密着して話しかけて来る。 「ど、どなたですか?」 「通りすがりのサンタだ」 変態だ。いや変人か? ──違うな、この人は変な魔法使い・・・ 周りを見ると道行く人々が止まっている。 自動車も止まっている。 全てが静止している。 これはヤバイかもしれない。 「聞いてるか?」 この変態、とりあえず普通に喋れるようなのでコミュニケーションを取ってみることにする。 「寒くないですか?」 「寒く無いぞ」 「ならそんなに密着しなくても・・・」 「ちょっとの時間だけだ、我慢してくれ」 やっぱり寒いんだ。 「僕に何か用でもあるのですか?」 「いや何、クリスマスの何たるかを理解しているお前にプレゼントをあげたくて声をかけたんだよ」 自称サンタが真剣な眼差しで真横を向いて語る。 近い・・・ 「プレゼントをくれるのですか?」 「そうだ」 「ありがとうございます。で、何をくれるのですか?」 「ではプレゼントをやる前に少し質問に答えてくれるか」 「はあ」 「彼女はいるのか?」 「いません」 「過去には?」 「生まれてからの18年間全くいません」 「そ、そうか・・・。ではどんな女性が好みなんだ?」 「そうですね、40代後半の油が浸み込んだ綺麗な熟女が好きですかね」 「・・・そんなのでいいのか?」 「はい」 「なかなか変わった趣味だな」 「なので彼女を見つける事ができず困っています」 「妥協しろよ!」 「ここまでの人生で彼女ができていないのですから多少は待ちますよ」 「待っても来なかったらどうするんだ?」 「それでもです」 「そ、そうか・・・。では次の質問をするけどいいか」 「はい」 「夢や希望はあるのか? あ、電子レンジになりたいとかは無しだぞ」 なぜに電子レンジ・・・ 「そうですね、50代前半で年収1500万円くらいのサラリーマンが良いですね。あと髪はフサフサでお腹は出てなくて結構モテるナイスミドル的な感じかな。家に帰るとエロい奥さんが待っていて、可愛い娘が1人いたりして。──あと、もう一つ付け加えるなら髭を生やしていても会社的に受け入れられる環境で仕事がしたいですね」 「お前は本当に18歳か? 夢や希望のレンジが狭すぎやしないか?」 レンジ・・・おやじギャグの前振りだったのかな。 だが毅然とした顔でスルーする。 「今時の若者はこんな感じですよ」 「そ、そうか・・・。これで質問を終わる」 「はぁ」 「では今から1日間だけお前が望む理想の人間にしてやる」 「え、今からですか?」 「そうだ、──ただ1つだけ譲歩してもらうことが有る」 「何ですか?」 「お前が入れ替わる予定の50代前半のサラリーマンなんだけどな、お前が入れ替わっている間はお前に成り変わって高校生を体験する事になるけど良いか?」 「まあ、こんな僕で良いのならどうぞと言いたいですね」 「では決まりだな。早速やるぞ」 早っ! パン!! 手を合わせる音がやけに耳に残る。 「アポカン・クロマッティ・ワサンボン」 変な呪文・・・、でも何だか視界が・・・ ── 「うっ!」 ここは? 玄関?  顔、髭? スーツ? マジか・・・ え、扉が開くのか! 「あ、パパ。お帰り」 高校生くらいの可愛い少女が化粧の臭いをプンプンさせながら出て来た。このサラリーマンの子供なのかな? 「ああ・・・、今帰った」 娘が僕の耳を引っ張って囁く。 「今日彼氏とプレ・クリスマスイブデートで帰らないからお母さんと二人でゆっくりイチャイチャできるよ」 プレ? イブ? 前前夜祭か! 「それじゃ行ってくるね」 娘は楽しそうな顔をして尻を振りながら去って行った。 「あなた。お帰りなさい」 扉の向こうに裸エプロンで横乳がはみ出した綺麗な熟女が立っている。 「ああ・・・ただいま」 「どうします?」 「何が?」 「お風呂にしますか? お食事にしますか? それとも・・・」 ああぁ、お決まりのセリフが聞けた。これだけでも幸せだ。 それから24日の18時55分頃まで夢のような家族劇が繰り広げられ、僕は元に戻った。 ── バス停・・・、静止した世界・・・ 「どうだった?」 「あ、変なおじさん」 また左横に密着して座っている。 「誰が変なおじさんだ!」 「すみませんついつい」 「楽しめたか?」 「はい、理想の夫婦の形でした。それにやはり熟女は良いものだと痛感しました」 「そ、そうか・・・やっぱり年上が良いのか・・・」 「はい」 「それは少々困ったな」 「何がですか?」 「右横を見てみろ」 「えっ? 誰?」 制服姿の女学生が僕の腕に纏わり付いて静止している。 「それがな、こっちに来ていた入れ替わりの髭のおっさんが秒で口説いちゃってな、お前らは家にも帰らず昨日からずっとこの調子なんだよ」 やばい、家に帰ってないんだ。 家族に何も言ってない。 とりあえずコミュニケションツールで連絡しておこう。 ・・・想像通りいっぱい来てるな。 :こんな時間まで何してるの!! :ちょっと用事があって :早く帰ってきなさい!! :今日は帰らないので心配しないでください。 :あなたはまだ学生なのよ!! :大丈夫です心配しないでください。 :お母さんはもう知りませんからね!! めっちゃ怒ってる。 というか僕が返答しているのか? 横を見ると変なおじさんが親指を立てている。 「入れ替わった髭のヤツが代わりに返答してたぞ」 まあ、返答していなかったら失踪届とか出されていたかもしれないのでそれはそれで結果オーライだ。 アレ? 昨日から帰ってないと言う事は・・・ 「僕の体は昨日の夜はどこに泊まったのでしょうか?」 「ああ、ホテルに直行してたぞ」 「もしかして僕の知らないうちに僕の体は初体験を終わらせてしまったのですか?」 「お前も髭のおっさんの奥さんとやったんだろ!」 「まあテヘヘ」 「スケベ野郎が! ニヤケ過ぎだ」 しかしこの娘が僕の彼女になったのか・・・ 高校生かな? 趣味じゃ無いな。 胸大きいな。それにスカートが短くてピチピチな太腿がスベスベだ。唇もプックリしててエロい、そして何よりカワイイ。 ・・・・・・ 「いいんじゃないですか、こう言うのも」 「え、何がだ?」 「これはアレですよ、諸行常ってやつですね」 「回りくどい言い方だな。ようするにこの娘と歳を積み重ねると言うことだな、・・・小洒落た言い方しやがって」 「はい、僕はこの娘を捨てて新たな恋をするような事はしません。ちゃんと残しますよ。そして僕が50歳になった頃にはこの娘はあの奥さんのように・・・」 「お前は何が何でも熟女なんだな」 「まあ、そうですねテヘ」 「・・・まあいい、それじゃ丸くおさまったって事でいいな」 「はい」 「じゃ俺は行くよ。メリークリスマス」 ──変なサンタさん、クリスマスプレゼントをありがとう。 END
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