平行線

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 ――他人のまま家族になる。その妙な響きに心の中で苦笑する。他人は心を埋めてくれるはずなのに、家族は満たしてはくれないのだ。いつだって、心のささくれを癒してくれるのは友人や恋人といった他人だったはずだ。賢哉はいったい、私のなんなんだろう。一つになるというもの悲しさを私は思い浮かべた。別々でいたかった。それは、心がどこにあるのか分からないという別々ではなく、お互いが頼り合える別々でいたかったということだ。今の私たちの間には、惰性という言葉がぴったりなほどに馴染んでしまった空気が横たわっていた。  今日も、私は仕事に行く。賢哉は自室でパソコンに向かう。こんな日々がいつまで続くのだろうとまた一つ思いながら、私は週末に久しぶりに彼に逢おうと思った。たっぷりと愛しているように私を抱いてくれるあの腕を思い出すと、後ろめたさは隅に追いやられてウキウキとした気持ちだけが心を埋めていく。きっぱりと他人である彼だからこそ頼れるのだと思うと、また少しだけ笑ってしまう。きっと私は結婚に向いていないんだろうな、とたしかに感じていたのだった。
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