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【 終章 】 希望
戦況が厳しくなりつつある。
ユウナギは憤りを隠せずにいた。彼女は中央の政務官や、東から戻ってきた兵士らの様子を垣間見るのみだが、じわじわと国が侵略されていくのを肌で感じている。中央から派遣した兵だけでは間に合わない。東の国境付近に暮らす成人男性は命により、小競り合いや警備に駆り出される。その地の民は暮らしがままならなくなり、いくらかの者は避難を始めた。残された民の生活は更に圧迫される。
「国は、その土地の人々が穏やかに暮らしていくための土台なのに……! どうしてその国を造るために、こんなことしてるの……」
どうして? ユウナギは国の王であるのに分からない。それを知る人物は誰なのか。存在するのだろうか。
「書状もおそらく受け取られていません。使者を遣わせても帰ってこないのです」
敵国にしてみたら話し合う理由はない、それはこちらも分かっているのだが。
「抵抗するにはやはり、全土からの徴兵が必要かと」
「兄様、それは待って。今でも東では民までも参戦しているのでしょう? 一般の民が負傷しているのでしょ!?」
トバリは中央の官人らにそういった女王の意向、つまりは命令を、余さず伝えている。しかしこの状況だ、それにすべて従っていたら、挙句にはここ中央まで攻め込まれることを、彼らは既に危ぶんでいる。
「私は、歴代女王が当然のように持っていた鬼道の術が使えない……。占いも呪いもできない、神も降りてこない!」
ユウナギは思いつめた表情で叫んだ。
「ユウナギ様……」
「でも、何とかするから。この今の状況をどうにか変えてみせるから! だからお願い、もう少しだけ待って……」
トバリはそんな彼女を労わった。彼も彼女の思いに何としてでも応えようと、右往左往の毎日を送っているのだった。
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