ナツヒの眼差し

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ナツヒの眼差し

 ユウナギは、その采配の進捗を知る必要もないと、あとは全面的に、サダヨシに任せた。  それからまた時がたち、ユウナギの元にあの医師から包みが届く。ユウナギは彼女に人材の育成を任せて以来、何度か謝礼の物品を送っている。しかし彼女からは確かに受け取ったとする口上のみで、(ふみ)が付けられるわけでもなかった。この度はどうも「陣中見舞い」とのことだ。戦が始まると国の多くの民に取り沙汰されているのだろう。  ユウナギはその包みを開いた。するとそこにあったのは。 「貴重品だって言ってたのに……」  かつて彼女に貸し出された方位針であった。 「北へ向かうといいことがあったりするのかも」  護符のように、胸元へそれを忍ばせた。 ***  ユウナギは決戦日が定まった時から一日と開けず、力の限り弓を引いている。  戦場へ発つ日まであと3日というところ。鍛錬場で、ナツヒとばったり顔を合わせた。 「あ……」  ふたりはこの三月の間、互いに(せわ)しなくしていて対面することがなかった。これほど離れていたのは初めてではなかろうか。それでも互いにそれを思い起こすこともないほど、心に余裕がなかったのだった。  なのでまさに今、ふたりは何から話せばいいのか、はじめの一言が出てこない。 「……お前は明後日までに兄上と逃げろ」  沈黙を破ったのはナツヒの方だった。 「え?」  ナツヒがまっすぐに見てくる。 「何を言ってるの? そんな冗談……」  彼は急かすように彼女の肩を掴んだ。
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