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交渉
申し出が受け入れられることはないと分かっていた。長きにわたり実権を握るのは女王ではなく、あの一族の男たちだということは知られるところなのだ。
「お願い。国を取り込んだ後も、民を捕虜にはしないで。東から豪族がやってくるようになっても奴隷にはしないで。日常をただ懸命に励んでいる人々よ。今のまま、変わらない生活を保証して。それはあなたの願いでもあるでしょう?」
彼は自分について、彼女がまるで見知ったような言い様をすると感じる。
「百年だか二百年だかの為政者の血は、ここで絶たせてもらう」
「…………」
ユウナギはここで決まるのだと理解した。コツバメに急に連れてこられ、この機会は霹靂のような気がしないでもないが、敵国の大将と話をしているのだ。正念場だろう。
「なら、決戦をしましょう。それに権力を握る一族みなを参戦させるわ。国の成り立ちの時、力で支配権を勝ち取った男たちの末裔よ。この血を絶やしたいなら戦いの中でそうすればいい。だから一般の民だけは、どうか……」
「お前は勝ち目がないと分かっているのだろう? だったら最初から引き渡せばいいじゃねえか」
「私は愚かな王だから。どうせ死ぬなら愛しい人の傍らで……。たとえ、他の命を巻き込もうとも」
「ほう。いいと思うぜ。それが上に立つ者の利権だからな」
彼は少々考え込む。
「三月の後だ。前哨戦は今後一切なしでいく」
ユウナギは固唾を呑んだ。しかしこれで小競り合いによる民への生活阻害は止まる。
「あと、私はそのために一切民を徴兵しない。だからお願い。あなたの国の民も、できるだけ巻き込まないで」
おかしなことを言う彼女を、彼はいったん睨みつけるが、話を聞く意思はあるようだ。
「日々食物を作り家屋を作る、そんな生を生む人々に殺し合いなんてさせたくない。為政の一族と、戦う覚悟のある兵士のみを参戦させる。騙し打ちではないわ。あなたのところの密偵が、準備する我が軍の大きさを測ることもできるでしょう。だからそちらも、むやみにこの戦のための徴兵をしないで」
彼の覇道もまだ途半ば。人口減や取り込む土地の荒廃を防げるなら、彼にとっても損のないことだ、という前提で彼女は訴えている。
「……考えておこう」
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