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余興の主役に抜擢
再び彼は黙り込む。ユウナギはただ彼を待つ。
「三月後、満月の夜の翌日、陽が真上に来たら開戦だ。場はそちらの国の北東を出た先の平地。詳しくは書状を送らせる」
それが命日か、と彼女は目を伏せた。
「お前も兵を鼓舞するため、参戦する気概はあるんだよな」
「もちろんよ。どうして兵士たちを盾にして私が逃げられるの」
「噂に聞いている。国の女王はあまねく認められた弓の名手だってな。その命中率は国で一、二を争うんだろ?」
誰がそんな噂を流しているのだろう? とユウナギは不思議だ。
「それは最後に見ておかないとな」
そんなのたいして興味ないくせに、と即座に思った。
「ちょっとした余興を行う」
「余興?」
「女だてらに戦場で弓を引くというお前に、開戦の合図を任せる」
「合図……」
「その、今お前が寄りましに使っている間者の女、お前が命乞いの文を寄越した奴だったな」
ユウナギはアヅミの目でまた彼を睨みつけた。
「間者など捕えられれば処刑に決まっている。そうだろ?」
「そうね」
「その日の正午、この女の首の上に戦斧を振りかざし待機しておく。その斧を正面から弓矢で吹っ飛ばしてみろよ。見事当てたら女の命は保証してやる。そしてその一矢が開戦の合図だ」
「そんなことしなくても、私は逃げも隠れもしないわ!」
これで女王の影武者を戦場に送る道も断ったつもりなのだろう、ユウナギは苛立った。
「ただの洒落込みだ。まぁお前が逃げたら、この女の首の落ちた瞬間が開戦の合図になるな」
彼はそう言いながら指先で彼女の首に触れた。そのまま撫でるような仕草をする。
ユウナギは息を吸った。
「吹っ飛ばしてやるわ!! 必ずアヅミを無事に解放しなさい!」
その言葉を最後に、彼女は自分の寝床で覚醒した。
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