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「雄治の裁判が再来週から始まるって弁護士から連絡があったよ」
「そうなんだ」
今言うことだろうかと思いながら、高梨は史弥が下腹部に手を這わせるのに身を任せていた。ひ弱そうな外見なのに史弥はこの方は強くて、まだしたり無い様子である。高梨もまんざらではないが、もう少し気怠い余韻に身を任せていたかった。
「史弥は傍聴するの?」
「今となっては唯一の身内だからね……弁護士も僕が雇っているようなものだし」
「国選じゃないんだ」
「僕は雄治に同情しちゃうんだよ。養ってもらっといてなんだけど、ばあちゃんにも非はあるから……いや、非しかないかもね。頭はハッキリしていると思っていたけど、兄貴が死んでからは老害そのものだった。刑務所に何年入るかわからないけど、出所したら面倒はみてやるつもりだよ」
「そのへんの感情は部外者の俺にはわからないな」
高梨は欠伸をした。史弥は体を起こして、カーテンの間に手を入れて窓を細く開けた。初冬のひんやりした風が流れ込み、愛欲に澱んだ室内を清める。
「この家、来年か再来年には売るつもりなんだ」
「ひとり暮らしには広すぎるか」
「日々の掃除すら大変だもん。あちこちボロボロだし」
史弥は天井に広がる雨漏りの跡を指差した。
「不動産会社の担当者が、うち以外でも、相続税対策で土地を売却するという話があるから、ここを売ってくれたらまとめて分譲住宅を十軒くらい建てたい、相場より高く買いますなんて言うんだよ。ここはバス停が近いし、小学校も十分くらいで通えるし、ファミリー層にぴったりらしいよ」
「片田舎にしか見えないけどなあ」
自宅の郵便受けに入っている不動産広告の、きらきらしたフレーズが思い出された。喜代子の件はその後の痴漢事件にかき消され、屋敷を取り壊して建売住宅ができる頃には誰もが忘れているだろう。
「ここを売ったらまとまった金ができるから、駅前に小さいマンションでも買おうかな。即金なら男のひとり暮らしだろうが、誰も嫌な顔はしないよね。どうせなら、ここから離れて、大学生の頃暮らしていた街に引っ越すのもいいな」
「……一緒に暮らしてもいいよ」
史弥は窓を閉めて、高梨をまじまじと見つめた。
「本当?」
「なんだか放っておけないからさ」
史弥は高梨に抱きつき、体中に痕がつくほど口づけた。高梨も気持ちが盛り上がってきて、史弥を組み敷いて舌を吸った。もう一度肉体の奥底まで堪能したくなってくる。コンドームを着けて後ろから貫くと、史弥も喘ぎながら腰を打ちつけてきて、ふたりは獣のように本能だけの塊になっていた。
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