なかったらしい

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なかったらしい

「なんてね…そんなマジ顔するなよ」 彼は冗談の神様だ 「なかったらしいね、シティポップもバブルも消費税導入も」 気づけば昭和、平成、令和と3代も息続けている 「そんなマシな話しばかりやめろよ」 彼はクリームソーダのトレードマークのドクロの長財布から伊藤博文のお札を出し、会計して店を出ようとする 「まてよ、本題が終わってないぞ」 「まだ、なかったことを続けるのか」 「なかったらしいが、あったかもしれない」 そこには、たしかに、僕たちが育った学校の体育館の裏庭には デコピンをし合うふたりのあの時の姿があったらしい 昨日の同窓会では、彼女に聞いたところ、そんなこと僕らふたりにはなかったと断言した なつかたらしい あの夏かしら 夏方らしい 夕方の 夕日が斜め30度に熱く照らすことも もうなくなったらしい 冷めた目で見ている僕たちは なかったらしいとしか思っていない なつかたらしいとは なかったらしいというだけで、たしかにあった 友情も愛も駆け引きも欺きも 50億年後も懐かしむ環境が…なかったらしいと見たことない音言葉
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