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あの頃、私は22歳の若造だった。だから、あんな女に引っかかってしまったんだ。
42歳になった今でも、忘れられない。
「……部長、どうなさったんですか?」
そう顔を覗き込んできたのは、短大卒の新入社員、由梨だ。
「いや、なんでもないよ。少し、昔のことを思い出した」
そう言うと、由梨は悪戯っぽく口を尖らせた。
「また元奥さんのことですか? あとでじっくり聞かせてくださいね」
「こら、会社でそういうこと言うな!」
小声でのやりとり。親子ほどの歳の差がある私達が恋愛関係であることを知る者は、社内にはいない。二十歳になったばかりの部下に手を出したと非難されても仕方ない。だがそれでも、真剣に愛し合っているつもりだ。未だ、清い交際だが。
夜、私と由梨は高級フレンチに来ていた。由梨は「こんなところいいの?」「私も出すよ」と言っていたが、20歳以上も歳下の彼女に財布を出させるわけにはいかない。
出てくる料理全てに驚く純粋な由梨を見ていると、まるで娘を見ているような気持ちになる。
「ねぇ、そろそろ私の家に挨拶に来ない?」
食べている途中、由梨がそんなことを言ってきた。
「お母さんがね、私の彼氏の顔を是非見たいんだって」
「……それはちょっと怖いな。娘の彼氏がこんなおじさんだったら、普通は嫌だろう」
「大丈夫! もう年齢差のことは話してあるし。というか、うち放任主義なんだよね」
そう言ってケラケラ笑う。
「私、昔っからおじさん好きなの。父親がいないから無意識に求めてるのかもねーって母親が言ってた」
「そうか。それでも心配だな。俺が親なら絶対に反対するし……」
「子供いないのに何言ってんのー。それに反対されても、きっとわかってもらえるよ。私達が愛し合ってれば大丈夫!」
「そう、だな」
頷いて、私達は軽く乾杯を交わした。チン、と涼しげな音が鳴る。
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