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第62話 一緒にいるために出会った
一夜の夢が終わって、それぞれが帰路についた。
今頃、今夜のライブについてSNSで拡散されていて、明日にはまた違ったニュースがテレビを賑わせているいるに違いない。
会場の近くまで車で迎えに来ていた美夏を禅は大袈裟なくらい心配した。
「お腹の赤ちゃんに何かあったらどうするの?運転はダメだって」
「大丈夫だよ。それより、あたしもお腹の子も早く禅くんに会いたかったから」
「運転代わる」
「じゃあお願いしよっと」
禅と美夏を見送った比呂が悠二に言った。
「どこか飲みに行く?」
「比呂お前酒やめたんだろ」
「僕はノンアルで。悠二は飲めばいい。雰囲気だけでも楽しみたい気分なんだ」
「じゃあ、行こうか。湊も誘う?」
「湊と翡翠はさっさとタクで帰らせたよ」
「なんだ、じゃあ2人で朝までか」
「ノンアルで朝までって辛い」
「いいじゃん、付き合え」
タクシーの後部座席に乗り込むと、窓の外の流れていく光を見ながら翡翠が話し始めた。
「ねぇ湊、あのさ、『一番欲しいものは何ですか?』っていう質問あるでしょ?あれって、一個しかダメなんだってずっと思ってた。でもね、最近『一番』が二個あったっていいって思うんだ」
「ふうん」
「一個しかダメだなんて誰が決めたんだろうね?」
「うん」
「今まで、欲しかったものはいつもわたしを通り過ぎて行ったけど、これからは、全部手に入れてみせる」
湊は話している翡翠の横顔をずっと見ていた。
翡翠も湊の顔を見返した。
「わたしが一番欲しいのは、湊と歌。湊が手放したくないのは、わたしと歌だよね」
湊は翡翠に向けて優しく微笑んだ。
「よくわかってるじゃん」
「湊とわたしは、ずっと一緒にいるために出会ったんだよ」
「翡翠と出会えたのは奇跡だからな」
もし、あの時のボーカルで妥協していたら、スタジオを外には飛び出さなかった。
YouStreamから流れる翡翠の声を聞かなかったら、この未来はなかった。
unanimousの誰一人かけても、ここでこうしていることはできなかった。
「もう翡翠はひとりぼっちじゃないよ。これからもずっと」
「だったら、今日一緒に寝てもいい?」
「…前から思ってたんだけど、意味わかって言ってる?」
「意味って?」
「だよな」
「何が?」
「いいよ。待っとくから」
「何を?」
「うるさい」
END
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