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第2話 JUDE
湊はスタジオを出ると、少し歩いたところにある公園のベンチに座った。
ちょっと前ならタバコでも吸って気を落ち着かせていたところだったけれど、今はどこも喫煙できる場所がない。
何より、タバコの害は痛いほど思い知らされた。
所在なく、周りの音に耳を傾ける。これはもう癖になっている。
どこで曲づくりのヒントに出会えるかわからない。
「なんだこの声?」
音の聞こえる方を見ると、女子高生がふたり、湊が座っているベンチの向かいにある、小さな舞台の淵に腰掛けてスマホを見ている。
どうやら声はそのスマホから流れているらしい。
「あ、ねぇ、君ら何聴いてるの?」
「ナンパ?」
「違うよ。今君らが聴いてる歌声に興味があって」
「これ?」
持っているスマホを湊に向けてくれた。
再生されている動画から聞こえる歌は、THE ROLLING STONESのAngryだったが、動画の中の人物はアカペラで歌っている。
フードを被っているせいで顔は見えない。
「声に芯がある。声楽をやっていた?長いフレーズにブレスがない」
湊は思わず声に出していた。
からだ中がぞくぞくする。
「呼吸の使い方が並じゃない。どれだけ歌い込んできたんだよ」
心臓の音が早く感じる。
自分の作った曲を歌わせたらどんな感じだろう?
バラードもいいかもしれない。
湊の頭の中をいろいろな思いが駆け巡っていく。
ぶつぶつと独り言を呟く湊を、女子高生たちは訝しげな視線を投げかけていたが、そんなことはどうでも良かった。
「なぁ、君らこの声のやつと知り合い?」
「知り合いっていうか、YouStreamで時々聴いてるだけ」
「それ、チャンネル教えて」
「いいけど、すぐ消えちゃうよ」
「どういう意味?」
「歌がUPされて、短い時は数時間で削除されちゃうの」
「なんで?」
「さぁ…あたしらに言われても」
「そうだよな、ゴメン」
湊は女子高生にチャンネル名を聞くと、メンバーに動画を見せるため、スタジオへ急ぎ戻った。
「ちょっと、これ聴いてくれよ!」
アプリでチャンネル名を探すと、悠二と禅に画面を見せた。
「見ろって言われても」
「なぁ。」
湊が画面を覗くと、さっきまであった動画は削除されていた。
「嘘だろ。本当に削除されるんだ」
「どういう意味?」
「いや、さっきまですごい声のやつが歌ってる動画があったんだけど…」
「へぇ、湊が興奮するくらいだからよっぽどなんだろうな」
「うん。お前らに聴かせたいと思って急いで戻って来たんだけど」
「『JUDE』か…」
「待ってれば、またここに歌がUPされるってことだよな」
「オレ、こいつの歌生で聞いてみたい」
「うーん。湊の気持ちはわかるけど、どこの誰かもわかんないのにどうやって探すんだよ?海外に住んでる可能性もあるし」
「まぁ、結論を出す前にまずは動画がUPされるまで待とう」
「そうだな」
「取り敢えず今日は撤収しよっか。飯でも行く?」
「俺、この後、音楽番組でバックやることになってるからここで」
「そっか。じゃあ」
小さくなっていく禅の後ろ姿を、湊と悠二はその場で見送った。
「このままでいいわけがない」
「だからって、妥協したくないっていうのはみんな同じ思いだから」
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