夜のアジフライ

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 ————先週、おじいちゃんが死んだ。  家の中で一人、静かに亡くなったおじいちゃん。棺桶の中で、花に埋もれて眠るおじいちゃんは、私が記憶していたよりずっと、ずっと小さく感じた。  目尻や額、口元に深く刻まれた皺。たるんだ頬。散らばるシミ。こんなに老けてたっけ。こんなに、弱く見えたっけ。  おじいちゃんと最期に会ったのは、半年前。もうすぐ八十だというのに、よその八十よりもずっと元気で、「全然そんな年に見えないねえ」って、近所のユリさんがよく言っていた。  こんなすぐに、一人で、死ぬ人じゃなかった。  死因は、大動脈解離。「凄く痛かったでしょうね、可哀想に」って、親戚のおばさんが憐れんで泣いていた。可哀想、なんて、おじいちゃんに一番似合わない言葉だった。  熱血、頑固、お節介。それがおじいちゃんの代名詞。おじいちゃんに会いに行くたびに、色んな事をしつこく聞かれた。仕事、恋人、金銭関係、家族。それから、説教じみたことを言われる。電話も良く掛かってくる。面倒くさいなぁって思っていたけど、それでも何故か、嫌いになれない人だった。  弁護士の人が来て、遺産相続の話をした。なんとおじいちゃん、遺書なんてものを残していて、ひょっとしたら、自分が死ぬときを分かっていたんじゃないかって思った。それなら、もっと「会いに来い」って、私を呼んでくれればよかったのに。  おじいちゃんは、地域でもちょっと有名な資産家で、いろんな価値のある遺産が、伯父さんやお父さんたちに振り分けられた。  そしてなぜか、私はこの家をもらった。
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