0人が本棚に入れています
本棚に追加
おじいちゃんの匂いがしみ込んだ広い家に、ぽつんと一人。ついこの間まで、遺品整理やらなんやらで騒がしかったのに。
おばあちゃんは、私がまだ幼いころに亡くなってしまった。それから、おじいちゃんはずっと、この広い家で、一人で暮らしてきた。昔はお手伝いの人が一人二人いたらしいけれど、私が生まれる少し前に止めてしまったらしい。
温かいご飯を噛み締めながら思う。おじいちゃんは、何を思って、ここでご飯を食べていたんだろう。淋しくなかっただろうか。虚しくなかっただろうか。
もっと、会いに来てあげればよかった。もっと一緒に、ご飯を食べればよかった。
たまにおじいちゃんに会いに来て、私がご飯を作ると、おじいちゃんはいつも「味が薄い」とか「物足りない」とか文句のように言った。けれどよく、「ばあさんの味に似てる」とも言った。
お父さん曰く、おばあちゃんは凄く料理が上手だったらしい。
酢橘を絞ったアジフライを食べる。おじいちゃんは、酢橘よりも、レモンのきいたタルタルソースを付けるのが好きだった。
そっと、箸を置く。これ以上、食べられる気がしなかった。残った分は、明日食べよう。立ち上がって、キッチンにラップを取りに行く。お皿にぴったりラップを張って、冷蔵庫に仕舞った。
空いた器は洗って、水きりバットに置いた。
最初のコメントを投稿しよう!