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板の間に荷物を置いて、靴を脱ぐ。ローヒールのパンプスに詰めていた足先を抜いて、靴箱に仕舞う。幼い頃からいつもおじいちゃんに五月蠅く言われていたお陰で、すっかり身についてしまった。
洗面所で手を洗って化粧を落とし、ついでに湯船を洗う。紺と水色と白の、タイル張りの風呂場は、濡れるとつるっと滑ってしまいそうで少し怖い。リフォームしようと提案したこともあったけど、おばあちゃんがこのタイルを気に入っていたらしくて、おじいちゃんが残したいって言っていたから、今でもそのままにしている。
部屋着に着替えて、庭に干している洗濯物を取り込もうと、居間から縁側にでようとして、思わず立ち止まる。
庭に、人がいた。黒のパーカーとジーンズを履いている。手には黒い革の手袋。背が高くてなで肩の男。帽子を深く被っている所為で顔はよくわからないけれど、知らない子だ。
こんな時間に、何を?
いったい誰?
警戒しながら、暗い庭に目を凝らす。手は、ポケットの中のスマホを掴む。
「あ、あの、」
聞こえた声は、まだ若い。
「もしかして、昭利昭利じいちゃんの親戚の人……っスか?」
昭利は、おじいちゃんの名前だ。
「孫、ですけど。……貴方は?」
尋ねると、彼は一歩、二歩、歩いてくる。影が落ちていた顔が、居間の照明に照らされた。パーマが掛かった茶髪の、少し生意気そうだけど可愛らしい顔の男の子。高校生、くらいだろうか。来ているパーカーは、黒じゃなくて紺色だった。
「俺は由紀也由紀也って言います。あの、昭利じいちゃんは……?」
「……亡くなりましたけど」
「えっ……」
由紀也という男の子は、大きな目をさらに大きく見開いて固まった。その顔色は心なしか、青ざめているように見えた。
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