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「亡くなったって、なんで」
「……知らない貴方に、それを教える必要ありますか?」
「……あ、そう、っスよね。すみません」
しゅん、とまるで子犬のように萎れる彼に、少し罪悪感が湧く。
「あの、貴方は?」
「あっ、俺、は、えっと……よくここにきてて、えっと昭利じいちゃんの友達っつーか……」
「おじいちゃんの?」
「まぁ、はい」
初耳だった。
おじいちゃんはあまり自分の話をしてくれないから。
「でも、そっか。じいちゃん、死んじゃったんスね……」
暗い顔をする彼に、あの、と思わず提案する。
「よかったら、仏壇に手を合わせていきますか?」
「えっ、いいんスか?」
ぱっと顔を上げた彼に、苦笑しながら頷いた。
なんというか……憎めない子だな。おじいちゃんが世話を焼いていたのも、少し分かる気がする。
「お邪魔します」
靴を脱いでおずおずと上がってきた彼を仏間に案内する。
仏壇に並ぶおじいちゃんの写真を見て、彼は息を飲んだ。何かをこらえるように唇を噛む。撫で気味の肩が小刻みに震えていて、私はあまり顔を見ないようにと俯いた。
しばらく間があって、静かな呼吸音のみが聞こえていた。
「……似合わないっスね」
やがて、彼はか細い声で呟いた。ずずっと鼻を啜る音が聞こえて、釣られるように鼻の奥がツンと痛くなる。ぐっと、奥歯を噛み締めた。
「あの、線香、あげてもいっスか?」
「はい、ぜひ」
仏壇の前にしゃがみ込んだ彼が、ポケットからオイルライターを出して、一本のお線香に火をつけた。ライターをポケットにしまって、静かに揺れる炎にふうっと息を吹きかける。オレンジ色の火が消えて、白くて細い煙が上る。白檀の香りが仏間全体に広がった。
叩かれた鈴の音が木霊する。掌を合わせて目を瞑り、指先に額を付けて、小さな声で「ごめん」と零す。
どうして謝ったのかは、分からなかった。
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