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それからときどき、彼はこの家を訪れるようになった。
おじいちゃんが亡くなったのだから、もう用はないはずなんだけど。私もなんだかんだ無下にできなくて、こうして夕食をふるまったりしている。
おじいちゃんのお節介が移ったのかしら。
「うわ、このアジフライうっま!」
「そう?」
最初の見立て通り、彼は近くにある高校の二年生だった。男子高生を家にあげて夕食をふるまうって、それだけ聞いたら誤解が生まれそうだけど。おじいちゃんにお線香をあげに来る彼を、ついでにと夕食に誘ったのだ。
彼は父子家庭でお父さんの帰りが遅いらしく、夕食はいつもコンビニで買って一人で食べているらしい。「本当は作った方がいいスけど、すげぇ不器用なんスよ」と笑っていた。
食事をしながら彼が話してくれるのは、いつもおじいちゃんのことだった。
あまり優等生ではなく、どちらかといえば不良だった彼は、よく学校をさぼって街をうろついていたらしい。彼がたまたま、この家の前で煙草の吸殻を捨てたところをおじいちゃんに目撃され、怒られてから、ときどき来るようになったのだと。
「最初は、鬱陶しい、偽善者気取りって思ってたんスけど。じいちゃん、すげぇ優しくて。気づいたら、結構絆されちゃってたんスよねぇ」
それから少しずつ学校に通うようになって、けどたまにサボってここに来て、おじいちゃんに怒られていたらしい。
「怒りながらも、俺の話をちゃんと聞いてくれるんスよね。大人は嫌いだけど、じいちゃんは大好きだった」
おじいちゃんとの思い出を語るとき、ときどき言葉を詰まらせることがあった。私は、それが少しだけ嬉しかった。
お父さんも、伯父さんも、葬式の時に泣いていたおばさんも、たぶんもう泣いていない。普通の生活に戻ろうとしている。世界がおじいちゃんを置き去りにしていく中で、彼だけは、未だにおじいちゃんを引き摺ってくれている。
気が付けば、こうして彼を夕食を食べながらおじいちゃんの話を聞くことが、楽しみになっていた。
次はいつ来るんだろう。少し多めに食材を買っておこうと、気にするようになった。
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