想い出の香り、おつくりします

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「ただいまです。義彦さん、華子ちゃん、夕飯の前におやつにしませんか?」袋を高く掲げてベルガモットはにっと笑った。  おやつと聞いてケーキとかどら焼きといった甘いものを想像していたが、テーブルの真ん中に置かれたのは苺だった。透明なガラスボウルにわんさかと真っ赤な苺が積み上げてある。水で洗われたそれは艶々と光っていた。 「……苺ですか。この時期に?」 「はい。珍しいですよね。苺といえば冬から春先が旬なんですが、この時期にも苺はあるんです。夏苺というらしいですよ。食べてみてください」 「いただきます」銀のデザートフォークで刺した苺を頬張る。甘酸っぱい苺の味が口の中に広がった。美味しい、素直に言葉が出た。 「そうでしょう」ベルガモットが満足そうに瞳を細めた。華子はフォークを持ったまま、何か言いたそうにもじもじしている。 「華子ちゃん?」義彦が首を傾げると、華子はベルガモットの方をじっと見た。それを見てベルガモットが立ち上がる。 「そうでした。華子ちゃんにはあれですね」キッチンの方に行ったかと思うと、何かを手に取って戻ってきた。その手に乗っていたのは練乳のチューブと缶。赤と白の配色で、牛の顔がデザインされている。練乳といえばどの家庭にもあるお馴染みのメーカー。缶は未開封のようだ。それを見た華子の顔に笑顔が浮かんだ。 「華子ちゃんは苺に練乳をかける派なんですよね。缶の練乳もありますから、あとで一緒に作りましょうね」 「作る?」義彦は再び首を傾げた。苺に練乳をかけるのは分かるが、缶の練乳を使って何を作るというのだろうか。 「ふふ。練乳の缶でキャラメルが作れるんですよ。さて、夕飯の後に食べられるように、今の内から火にかけておきましょうか」  練乳をたっぷりかけた苺を頬張る華子は嬉しそうに頷いた。
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