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気が付けばもう日が暮れ始めていた。今日の所は何もせず安静に過ごし、明日から本格的に華子に勉強を教えることでまとまった。
「そういえばベルガモットさんは何のお仕事を?」
「私は調香師です」
「調香師?」聞いたことがない。
「洗剤とか香水、石けんなんかの香りを配合する職業です。今はアロマショップで働いています。お客さんからこんな香りをつくってほしいという依頼を受けて、オーダーメイドでアロマを作ることもあります」
「へぇ、そんな職業があるんですか。知りませんでした」
「あまり表舞台に立つような仕事ではありませんからね。洗剤なんかをつくる工場だと、調香室と呼ばれるラボのような場所に缶詰め状態ですし」
「あ、もしかしてタオルケットの柔軟剤もベルガモットさんがつくったものですか? とても落ち着く香りがして……」
「恐らくその香りはアロマだと思います。調香師の仕事をしていると、却って洗剤なんかは無香料の物を使うんです。生活に色々な香りを混ぜてしまうと仕事に影響が出てしまうんですよ」
「アロマなんかありましたっけ?」
「枕元に置いた小さな石がアロマですよ」石がアロマ? もっと近代的な機械のような物を使って香りをまき散らすと思っていた。
「これです」ベルガモットが小皿を差し出す。その皿には一回り小さい石が乗っていた。つるんとしていて丸い。湿り気を帯びているのか、中心部の色が灰色がかって見える。
「ラベンダーのアロマです。ラベンダーには鎮静作用があるので、気を失っている義彦さんにはちょうどいいかなと思って置かせていただきました」
「アロマってただ良いにおいがするってだけではないんですか? 香水みたいなものだと思ってました」
「香りによってもたらす効果が異なります。ハーブティーにも使われるカモミールはストレスや緊張をほぐしてくれる作用がありますし、ローズは気分を明るくしてくれる作用があります。レモンは集中力を高めたい時にいいと言われていますね。私の名前にあるベルガモットはリラックスしたい時に使われる香りです」
「へぇー、アロマの世界ってすごいんですね」やはりベルガモットという名前は本名ではないのか。調香師である自分をアピールするための芸名みたいなものだろうか。聞いてもいいのか考えていると、ベルガモットが先に口を開いた。
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