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「す、すみませんっ、いつもと雰囲気が変わっていたので、つい声が……」
「ああ、イメチェンしたんです。好きな人が、こういうのが好きみたいだから」
人から見られることに慣れているのだろう。
突然店員が変なことを言っても、全く動じる様子はなく、凛奈は口の端を上げて可愛らしく微笑んだ、
「い……いいですね。そういうの、俺もしてみたいです」
そう言いながら、佑月は黒髪のロングヘアが好きだったのかと衝撃を受けた。
渉は出会った頃から変わらず、薄茶色の髪に天然パーマがかかっているので、毛先はくるくると回って遊んでいる。
好みとは真逆と言っていい状態に、嘘だろうとショックを受けた。
「えー店員さん、彼女いたことないの?」
「ええ……、どうも片想いばかりで……」
「爽やかイケメンってやつ? 可愛い顔しているのにもったいないー。もしかして、シャイだったりする? 積極的に話しかけて見たら? 絶対上手くいくって」
どうやら熱い人のようで、手を握られて、真剣な目で励まされてしまった。
凛奈はいつもスマホを触っていることが多いので、こんな風に会話をしたことがなかった。
「店員さんの片想いが実りますように。頑張ってね」
凛奈はそう言って、とびきりの笑顔を見せてくれた。
いい人だ。
ただの店員に話しかけられて、ここまでしてくれる人はなかなかいない。
そう思っていると、凛奈の視線が入り口の方に移って、次の瞬間、佑月と声を上げた。
自動ドアが開いて、入ってきたのは佑月だった。
「悪い、遅くなった」
「いいよ、全然。コーヒー二つ頼んでおいたから。それより早く、招待状のチェックしちゃおう」
「ああ、それは俺が持って行く」
忙しそうに店に入ってきた佑月は、二つのコーヒーが載ったトレイをカウンターの上から取って、先に歩き出した。
その後ろを凛奈が何か話しかけながら追いかけて行く。
まるで映画のワンシーンのような光景を目の前で見せられて、渉は固まったようになって動けなくなった。
佑月は凛奈のことを婚約者だったと話してくれた。
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