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 恋人ができたら、毎日早起きして、美味しい朝食を作るのが夢だった。  好きな人のためなら、お布団の誘惑にも負けない。  朝から煮干しと昆布で出汁をとって、ワカメとお豆腐のお味噌汁を作る。  ちょっと元気がない時は、豚汁にしたり、芋煮にしたりする。  まな板の上で、包丁を使ってトントンと音を立てている時、人生ってなんて素晴らしいんだと実感する。  だって顔を上げれば、ベッドで毛布にくるまって寝ている恋人がいて、もうすぐキスをして起こしに行けるからだ。  きっと結婚して三年目くらいの人から見たら、今だけだよ、なんて言われそうだけど、そう言ってもらって構わない。  付き合って三ヶ月、口説いた期間を含めれば一年近くだが、付き合いたての幸せを堪能して何が悪いのだ。  狭いマンションのワンルームだが、部屋は隣同士。  だけど、押しかけて毎日料理を作っていたら、いつの間にか自分の部屋には戻らずに、毎日この部屋で寝起きすることになってしまった。  だって仕方ない。  恋人が離してくれないのだから。  味噌汁に炊き込みご飯、煮物とお浸しが出来上がったら、今日の朝食は完成。  都筑渉(つづきわたる)は、お気に入りのエプロンをつけたまま、愛する人の寝ているベッドに近づいた。  恋人の名前は、雨樋佑月(あまどいゆずき)。  七歳年上で同性の恋人だ。  渉の恋愛対象はもともと男性で、隣の部屋に引っ越してきた佑月に、猛アタックをして付き合うことになった。  佑月は覚えていなかったが、二人の出会いは、実は五年前で、その頃に一目惚れに近い思いをして、渉の方は忘れられずにいた。  それでまさか隣人として、佑月が引っ越してきたものだから、渉はこのチャンスを逃さないと、押しかけて胃袋を掴んで、酒の力を借りて、泣き落としで頼み込んで付き合うことになったのだ。 「ん……、も……朝か……」 「朝食ができたよ。まだ時間があるから、ゆっくり食べよう」  そう言って佑月の頬に口付けると、ガッと腰を掴まれてベッドに押し倒されてしまった。 「わっ、ちょっと……」 「んー渉の匂い」
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