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 これでいい、これでいいんだと心の中で何度も繰り返して、渉は黙々と仕事をした。  季節は流れて、外の木々は葉が落ちて、枝だけに変わっていた。  お客さんが入ってくるたびに、吹き込んでくる風の冷たさに、本格的な冬の到来の予感がした。    仕事が終わり、ゴミ出しのために、外の倉庫に向かっていた渉が空を見上げると、空はどんよりと曇っていて、雪が降りそうなほどの冷気に包まれていた。    雪    それを考えた時、佑月の言葉が浮かんできた。  凛奈は雪の降る日に交通事故に遭った。  何かに背中を押されたように、スマホを取り出した渉は、急いでカレンダーを確認した。  佑月から聞いていた命日の日、それは、明日だった。 「う……嘘、ああ……明日……!?」  関係ない。  自分には関係ないんだと思いながら、渉は首を振ってゴミを片付けた。  明日だ。  明日を乗り切れば、佑月は自分のところへ来てくれる。  そう、明日、一人の女性の死を待つだけで……  倉庫のドアを閉めて顔を上げると、空には大きな月があった。  少しだけ欠けた月、なんとも悲しく見えてしまった。  その時、渉の脳裏に、佑月が悲しそうな目で夜空を見上げている横顔が浮かんできた。  「ずっと欠けたまま……」  渉が佑月に告白をした時、佑月は、俺みたいなつまらない男でいいの? と返してきた。  佑月のことが全部好きだからと渉は答えたが、佑月は、俺は色々と欠けた男だからと言っていた。  結婚寸前までいった、愛していた女性を失って、自分の中の何かが欠けてしまった、佑月はそう言いたかったのではないかと思った。  佑月にとっての幸せとはなんだろう。  過去に戻る前から、渉はずっとそう考えていた。  無理やり、頼み込んで押し切って、付き合うことになったから、佑月はどこか無理をして合わせてくれているんじゃないかと思っていた。  自分と一緒にいることが、本当に佑月の幸せなのか。  そう思ったら、辺りは静まり返って全ての音が止んでしまった。  「絶対幸せにする……」  渉はそう言って佑月を抱きしめた。
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